【三人閑談】
ホモ・サピエンスの誕生
2019/01/25
フローレス原人の謎
川端 アジアの原人が発掘された現場にはいろいろ行きましたが、フローレス原人は面白いですね。国立科学博物館にも再現の模型がありますが、2004年にNatureに論文が発表されたときには、皆驚きました。身長は110センチしかない。
河野 あれにはびっくりしましたね。
川端 実際に110センチの子供と接してみると、びっくりするぐらい小さいですね。幼稚園児でも、大きい子は110センチ以上あります。
荻原 原人がそんな小さくなるものだろうかと。
河野 脳もすごく小さくて。
川端 チンパンジー並みですか。
河野 そうです。なのに数万年前という新しさで、一体どうなっているんだろうと。人類はどんどん脳が大きくなってきた、というセオリーがその限りではないということになった。ほかの原人は皆、160センチぐらいでしょう?
川端 科博に150万年前のアフリカの原人の少年、トゥルカナ・ボーイという子がいますけれど、少年なのに165センチぐらいあります。ジャワ原人でも、大腿骨などから類推するに170センチオーバーの個体はいたと言われますよね。
荻原 原人は大きいですよね。何でフローレス原人はこんなに小さくなるものなのか。最初は大きかったのが小さくなったんですよね。
河野 島に渡って島で小さくなったと考えられていますね。
荻原 それは適応したということですか。
河野 そうですね。島という環境には敵もいないし、食べ物も限られているので、大きくなる必要もチャンスもなく、だんだん小さくなってしまう。島嶼矮小化という現象があり、人類の矮小化版ではないかと言われています。
川端 でも一部には納得しない人もいます。「人類は小さくならん。脳は小さくならん」と(笑)。
河野 病気のホモ・サピエンスだと言い張る人とか、いろいろいます。
フローレス原人は、近くにジャワ原人がいたはずなので、それが行って小さくなったんじゃないかというのが一番素直な解釈ですね。
荻原 でもあんなに小さいのに、石器技法はプリミティブではなかったんですね。
河野 そうそう。
荻原 脳の大きさって実は必要ないんじゃないか?(笑)
河野 細胞が小型化したんじゃないですか? 細胞の数は同じで。
荻原 でも細胞のサイズって、種でそんなに違わないのでは?
河野 そうなんですよ(笑)。クジラもゾウもネズミも皆同じ。
荻原 純粋に不思議だなと。
川端 石器だけ最初に見つかっている状態が4、50年続いて、その後で骨が見つかったんですね。最初は石器が出るといっても、真に受けてない人が多かったみたいです。
今は研究チームに入って骨を見ている海部陽介さんも「化石が出たといっても最初はまともに取り合っていなかった」とおっしゃっていた(笑)。
東南アジアではスラウェシ島やルソン島でも、石器だけ出ていて、その作り主の骨がまだ出ていない場所があります。年代的にはフローレス原人に近い時代のはずなので、どういう骨が出てくるのか興味深いですね。
人類進化の2つのフェーズ
河野 初期の人類が結果的に二足歩行をしつつ、犬歯も小さくなっていった、というところが、まず1つ目の大きな変わり目で、次の大きな変わり目は、300万年前から200万年前頃のどこかからホモ属の脳が大きくなっていったというところでしょう。
脳が大きいものをホモ属と呼んでいる。なぜ、脳が大きくなったかというと、肉食をするようになったからと言われている。でも、これも堂々巡りなんです。道具を使って肉を食べられるようになったので脳も大きくなったんだけど、なぜ道具がつくれたか、というと脳が大きいからと循環してしまう。
川端 しかし、先ほどのフローレス原人のように、脳は小さくても道具を使っていたこともあるわけです。
荻原 でもホモ属なんです。それは定義が崩れているけど、それ以外には呼べないと。
川端 そうでしょうね。
河野 属レベルであれだけ分けるというのもできませんね。分岐分類学的にも、あれを分けたら、ほかを皆、解体しないといけなくなる。
ともかくも、大きく変化していったのは、その2つのフェーズです。ただ、それは一定のペースで進んでいったのか、どこかで急激に変わったのかはまだはっきり分からない。
脳のほうはある程度、どういうペースで大きくなったかは分かっていて、エレクトスになってから、グッと大きくなったとNHKは言っていました。
NHKはとても頑張って、きちんとした番組をつくっている。これは間違いないけれど、全部正しいとは限らない。今、世にある説はこんな感じ、という1つの捉え方だと思っていただければと思います。
川端 一般の人たちにとっては、標準的な解釈が決まっているんだ、と思いがちだけれど、決してそんなことはないですよね。
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