【三人閑談】
「アメコミ」のちから
2018/11/26
等身大のスーパーヒーロー
園田 『アントマン』(2015年)は上手くできていますね。最初は小さくなるだけだから、つまらないんじゃないかと思ったんですけど。
杉山 たいしたものですね。小さくなるだけで、よくあれだけおもしろく作れるなと。
菅家 小さくなれるなら大きくなれるという発想もおもしろくて。
園田 そういえば、大きくなるスーパーヒーローって、アントマンがなるジャイアントマン以外ほぼいないですよね。日本だったらウルトラマンとか多いのですけど。怪獣も出てこないし。
菅家 ちょっと反則的な感じがするんでしょうか。
杉山 スーパーヒーローに対して、もう一つ「クライムファイター」という言い方もします。やはりアメリカのヒーローって、犯罪者と戦うヒーローが多い。
仮面ライダーは銀行強盗にライダーキックをしないけれど、スパイダーマンはヴィランだけでなく、ひったくりとも戦う。逆に、日本はそれだけ治安がいいからかもしれない。
園田 あと、日本の特撮物と違って、必殺技をあまり強調しないですね。単純に殴ったり蹴ったりするだけで。
菅家 人間の力を信じているところがアメコミにはありますね。バットマンも試行錯誤して、いろいろなガジェットを作っていくし、スパイダーマンもコスチュームを改良していく。
スーパーパワーを得たらヒーローになれるのではなくて、スーパーパワーを持つ存在に近づくために一生懸命努力する。いきなり「スーパーパンチ!」ではなく、人間っぽい方法で敵を倒していきますね。
杉山 ケネディの有名な演説の一節、「アメリカが何かをしてくれることを考えるんじゃなくて、アメリカに何ができるかを考えるべきだ」という精神がアメコミにはあるという説があります。
それから超能力のことをギフト(gift)と呼んで、そういうものを持った人は国家のために頑張りなさいというのがお約束です。
菅家 ノブレス・オブリージュみたいなものですね。
杉山 『007』だって、公務員なのに、なぜ公務員の給料で世界を守るのかと。ゴルゴ13ならフリーだから分かるのですが(笑)。
菅家 日本にはそういう国に奉仕するキャラはほとんどいないですね。アメリカではPledge of Allegianceといって旗に向かって毎朝、朝礼で「国に対して奉仕することを誓います」と小さい頃から言わされる。
国に対して自分が奉仕することに対する憧れみたいなものが強い気がします。
ダイバーシティに向かうアメコミ
園田 今後アメコミ映画って、どういう方向に行くんでしょうか。
杉山 『アベンジャーズ』とか『スーサイド・スクワッド』(2016年)ぐらいから、20代が好きになっているんです。この人たちがこれからもこのジャンルを見ていくなら、結構マーケットはあると思いますね。DCはだんだん明るい方向に行きそうですし、マーベルと拮抗してくると嬉しいなと思います。
菅家 マーベルは笑える映画が最近増えてきたと思うのです。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』(2014年)とか『デッドプール』もそうです。
ヒーローなんだけど、コミックリリーフ的なものも増えてくるのではないかと思います。
園田 そのへんは上手いですよね。日本のヒーロー物の映画には、そういうのは少ないかもしれないですね。
菅家 私はアメコミは、スーパーヒーローでもすべてを手に入れられないところがおもしろいと思っているんです。『バットマン』でも、レイチェルは死んでしまう。本当に好きな人は手に入れられないという葛藤は、私たちミレニアル世代と共感するところがあります。
杉山 僕にとってアメコミの良さって、自分みたいな奴がいてもいいんだと思える世界ってことなんです。
どんな人間にも必ずいいところがあって、出番がちゃんとある。『アベンジャーズ』で、どう考えてもマイティ・ソーだけいればいいのに、ホークアイはホークアイで、いなきゃ困るという場面がある。
『X‐MEN』でプロフェッサーXが出たときに、車いすのヒーローというのはすごく斬新でした。『デアデビル』(2003年)も盲目ですね。身体障害者なのにヒーローというのは、実はものすごい勇気を与えていたことなのかもしれないですね。
園田 その視点は気づきませんでしたが、そうですね。
杉山 アメコミは昔からダイバーシティに向かっているのですね。
園田 これからの作品にも期待していきたいですね。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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