【三人閑談】
「アメコミ」のちから
2018/11/26
「ヴィラン」の魅力
菅家 『スクリーン』の記事で杉山さんが、アメコミの実写映画は一流の俳優が演じるのがいいんだ、と書いていらっしゃいましたね。
杉山 そうですね。78年の『スーパーマン』に、マーロン・ブランドとジーン・ハックマンが出演する。一流の役者を出演させたところが偉かったと思いますね。
菅家 その人が演じる価値があるんだということを刷り込まれますよね。ロバート・ダウニー・ジュニアが『アイアンマン』をやっていたから、「『アイアンマン』っておもしろいのかな」と思ったし。ヒュー・ジャックマンがウルヴァリンをやったり(『X‐MEN』)。
園田 悪役も結構有名な人がやったりしますね。ロバート・レッドフォードも『キャプテン・アメリカ/ウィンターソルジャー』(2014年)に出ていますね。
杉山 アメコミは悪役がポイントなので。ジャック・ニコルソンのジョーカーからすごい役者が多いかなと思います。
園田 「ヴィラン」という言葉って、つい最近まで知らなかったのですが、昔から使うのですか。
杉山 アメコミが流行るようになって、悪役のことを「ヴィラン」というようになったんですが、最近定着してきましたね。
園田 一般的に使う言葉なんですか。
杉山 どうだろう。僕はアメコミで知りました。その前は「バッドガイ」という言い方をしていましたね。
菅家 ヴィランが、ただ単に悪いことをするだけだと、おもしろさは半減すると思うんです。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年)は、宇宙の人口を半分にすることで均衡を保とうとサノスは考えるわけですが、なぜ説得力があるかというと、今、実際地球には70億人の人がいて、今後どうやって持続していくのかという課題があるからこそです。『ダークナイト』のジョーカーもすごく説得力がある。
杉山 昔みたいに、「とにかく世界を征服するんだ」ではなく、それなりの動機がありますね。
特撮研にいたから分かるのですが、ヒーロー物を作るときに何が難しいかというと、なぜヒーローがわざわざ正義のために戦うのかという動機づけなんです。これだけの力があったら、好きなことをやればいいじゃないかと(笑)。
菅家 確かにそうですよね。
杉山 悪もまたしかりで、例えば悪の征服者が「愚かな人類を殺して地球を征服するんだ」と言うとき、人類が全部死んでしまったら、誰があなたを優秀だと言うんだと(笑)。
だから、結構、正義と悪がなぜ戦うのかという部分はしっかり書きますよね。
園田 あと正義と悪が入れ替わったりしますよね。
菅家 悪と善のグレーゾーンって、意外と人間の社会の中に必要なものかもしれない。その ような世の中でどうやって善に近づくか。
その葛藤が人間らしく、また興味深いので、ヴィランとヒーローの間を行き来するキャラクターに惹きつけられるのかなと思います。
世界を駆けるアメコミ
杉山 世界でヒットしている映画のベストテンに『アベンジャーズ』が3本入っていて、あとは『ブラックパンサー』(2018年)が入っている。だから、『ハリー・ポッター』とか『スター・ウォーズ』並に世界的に皆、アメコミ映画が好きですね。
園田 日本では、思ったよりもヒットしないという話を聞いたことがありますが本当なんですか。
杉山 どうなんでしょうね。世界の中でもこれだけ漫画とアニメが強い国はないので、『セーラームーン』があるところで『ワンダーウーマン』(2017年)がどうか、というところはあるかもしれないですね。
中国は最近になってハリウッド映画をやるようになって、結構人気があります。韓国はすごい好きです。『ブラックパンサー』のロケ地は韓国だったじゃないですか。
菅家 『ブラックパンサー』はおもしろかったですね。
杉山 いい映画でしたね。
菅家 アフリカにワカンダという王国があって、ヴァイブラニウムという、キャプテン・アメリカのシールドとかを作っている金属を大量に持ち、超最先端の技術も持っている。
今、アフリカに対する見方が変わりつつありますよね。今までは支援の対象だったのが、フィンテックなどでは一番進んでいる場所になりつつある。
そういった現実世界と照らし合わせてみたとき、「実はアフリカってこれだけのポテンシャルを持っているんだ」というメッセージが『ブラックパンサー』の中に隠れていて、それが斬新でした。
杉山 たぶんマーベルで『ブラックパンサー』が、一番当たった映画になっているはずです。あれだけ黒人キャストの映画だからどうかと思ったら、逆にそこがよかったですよね。
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