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【三人閑談】
「アメコミ」のちから

2018/11/26

「小僧なヒーロー」

杉山 『スパイダーマン』って「小僧なヒーロー」というイメージがあるから、役者を代えていかざるを得ないんですね。

菅家 高校生ですからね。

杉山 前の『アメイジング・スパイダーマン』(2012年)のアンドリュー・ガーフィールドって嵐の二宮君と同い年ぐらいなんです。その前の『スパイダーマン』シリーズ(2002年〜)のトビー・マグワイアに至っては伊藤英明君と同い年で、さすがにあの2人にもう高校生は無理です(笑)。

園田 『アメイジング・スパイダーマン』って、なんかウエットな感じがしませんか。主人公がくよくよ悩んで。こちらは爽快感を求めているのに何を悩んでいるのかと。

杉山 トビー・マグワイアのスパイダーマンって典型的ないじめられっ子で、のび太君みたいな子なんだけど、アンドリューって、今風の若者の悩みですよね。

フェイスブックのマーク・ザッカーバーグみたいな子が悩んでいることにフォーカスしているスパイダーマンらしい。だからちょっと七面倒くさい。

園田 リアルすぎてしまって。

菅家 最近のトム・ホランドのスパイダーマン(『スパイダーマン・ホームカミング』、2017年)のミレニアル感はよかったですね。アイアンマンにミッションに呼ばれて、キャプテン・アメリカのシールドを取ったりするのを携帯でずっと撮っている。「イエーイ!」みたいな感じ。ああいう軽さは私はすごく好きで、新しいキャラクターだなと思いました。

園田 コミックに一番近いのかなと思いましたけど。

杉山 近いですね。トム・ホランド版って、ほかにヒーローがいる世界で、小僧なヒーローがなんとかしなきゃ、という焦りがあるわけです。『ジャスティス・リーグ』のフラッシュも結構おどおどしていてよかったですね。

菅家 そうですね。私はもっと女性に出てきてほしいなといつも思っているんです。『シビル・ウォー』のときも8割方男性みたいな感じがする。今度の『キャプテン・マーベル』(2019年公開予定)が女性ですが、あとはマーベルもブラック・ウィドウとスカーレット・ウィッチぐらいしか女性がいない。もっと強くてかっこいい女性キャラが出てきてくれたら嬉しいなと思います。

方向性としてはだんだん人種の面でもダイバーシティ的になっていっているとは思うのですが。

地球を守るか、地元を守るか

杉山 アメリカって国が若いから、ヤマトタケルとか、アーサー王伝説みたいな民族的な英雄物語がないんですね。だから、そういうものを潜在的に欲しがる。

スーパーマンは、世界初のスーパーヒーローですが、いかにもアメリカ人らしく、いきなり最強のヒーローを作ってしまった。すると後から出てくるヒーローは何をやっても敵わないので、スーパーマンに対して普通の人間のバットマンが生まれ、男に対して女のワンダーウーマンがいる。スーパーマンからスペックダウンするか、対照的な軸でヒーローを作っていった。

菅家 それは確かにありますね。

杉山 僕が好きなのは、コミックで、バットマンがスーパーマンに「地球の平和を守るということと、この町を浄化するということは意味が違うんだよ」と説教するところ。「おまえの正義を持ってくるんじゃない」と。それはそうだなと思いましたね。

菅家 最近のヒーローのコンフリクトとして、外から来る敵から地球を守った結果、地元の人に嫌われるパターンが結構多いですよね。

結局、バットマンとスーパーマンが対立するのも、スーパーマンがゾッド将軍と戦っている間に、ウェイン・エンタープライズというバットマンのビルを壊してしまって、従業員が死んでしまうからですね(『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』、2016年)。

『シビル・ウォー』でも、ソコヴィアというところで戦いが起きて、家族が死んでしまい、アイアンマンが直接その遺族にクレームを言われ、すごく悩むんです。

園田 そういうところは結構リアルですよね。『ウルトラマン』で、町中で巨大怪獣と戦って、怪獣は倒すけれども町を壊していいのかと。今のアメコミ映画はそこをちゃんと考えている。

杉山 僕はコミックの中でのキャプテン・アメリカの「正義に政治が絡んだら、ろくなことにならない」と言うセリフが好きなのです。もし政治が、ある宗教国家を悪だと決めたら、俺たちは戦わなければいけないのか、そうじゃないだろうと。正義というのは個人の良心に委ねるべきだと。キャプテン・アメリカは、規制よりも自由を重んじるんです。

アイアンマンのトニー・スタークは、どちらかというと秩序を守るほうが大事だから、法に従いましょうという考えです。あれは、よく読むと、どちらがいい、悪いという話ではないですよね。

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