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【三人閑談】
「アメコミ」のちから

2018/11/26

  • 杉山 豊(すぎやま ゆたか)

    博報堂のシニア・クリエイティブディレクターを経て博報堂DYメディアパートナーズでエンタメビジネスを開発。1987年慶應義塾大学経済学部卒業。“杉山すぴ豊” 名でアメコミ映画コラムをメディアで展開。「東京コミコン」も担当。

  • 菅家 万里江(かんけ まりえ)

    渋谷教育学園渋谷中学高等学校英語科教諭。2010年慶應義塾大学文学部英米文学専攻卒業、12年同大学院文学研究科英米文学専攻修了。在学中、アメリカのコミックアーティストArt Spiegelmanやアメリカのコミックスの歴史等を研究。

  • 園田 智昭(そのだ ともあき)

    慶應義塾大学商学部教授。1986年慶應義塾大学経済学部卒業。91年同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。公認会計士。専門は管理会計論。映画(主にアメコミ系)と演劇の鑑賞が趣味。

スパイダーマンへの共感

杉山 僕は大学生のときに、慶應大学特撮映画研究会という非常にマニアックなサークルに入っていたんです。円谷プロ派と東映変身派が多い中、僕は洋物モンスターやヒーローが好きだった。とてもマイナーな文化だったのに、母校でまさかアメコミを語る日が来るとは(笑)。

菅家 私はアメコミ系の映画が流行ってきた頃に育ったという感じです。最初に見たのは、中学生のときの『X‐MEN』(2000年)。そこから「バットマン」の『ダークナイト トリロジー(3部作)』(クリストファー・ノーラン監督、2005年〜)を見て、これは深い、ただのヒーロー物ではないとはまりました。

また夫がアメリカ人なんですが、目茶目茶詳しくて(笑)。何を見ても「原作ではこうだった」みたいなことを言うので、マーベルもDCも欠かさず見ているという感じです。

また、大学院時代、修士論文でアメリカのコミックアーティスト、アート・スピーゲルマンについて書いていましたのでコミックも少しは読んでいます。

園田 アメコミの映画を好きは好きなんですが、そんなに深く知っているわけでもないんです。ですから、今回、アメコミ原作の翻訳を3冊買って予習をしてきました(笑)。

菅家 高いんですよね、1冊3千円ぐらいする。もともとアメリカでは1冊がもっと薄いのですが、日本だとまとめて売られるので。

杉山 翻訳が増えたのは最近ですね。まだそれほどは売れないので単価が高いですね。

園田 でもオールカラーでぜいたくですよね。

杉山 僕が子どもの頃、日本のテレビで外国のドラマや映画、アニメが放送されることは結構多かったんです。有名なアダム・ウエストが出ていた『バットマン』(1966年)はそうやって見ました。

中学のときに『スパイダーマン』の翻訳を初めて読んで、すごく自分に合うと思ったんです。当時、日本の漫画ってスポ根かヤンキー漫画かラブコメしかなかったから(笑)。会社に入ってから、ソニーさんが映画会社を買い取ることになり、当社が宣伝をすることになった。そのときのソニー・ピクチャーズの超大作が『スパイダーマン』(2002年)でした。

菅家 トビー・マグワイアの。

杉山 ところがスパイダーマンをあまり知っている人が社内にいなかったので、僕が急遽キャンペーンを担当することになったのです。実は中村獅童くんにスパイダーマンの格好をさせたのは僕です(笑)。

菅家 なぜ『スパイダーマン』が一番お好きなんですか。

杉山 基本的にあの主人公って何をやっても裏目に出る人生なんですね。そこが、なんとなく自分と似てるなと(笑)。恋人とのデートとバイト、町の人を守ることの3つが重なって、「どうしたらいいんだろう」と悩むヒーローって日本にいない。そこが共感できました。

スパイダーマンって、コンプレックスがすごくある一方、自分はスーパーヒーローだという自尊心も持っている。中学生って、自尊心とコンプレックスの間を生きているような生き物だから、それで「はまった」のですね。中学生のときにはまったものというのは、大体、一生好きなんです(笑)。

菅家 偉大過ぎない感じがいいですよね。

園田 子どもの頃『宇宙忍者ゴームズ』という短いアニメが日本で放送されていたんです。『ファンタスティック・フォー』って、『宇宙忍者ゴームズ』と同じですよね。

杉山 やっていましたね。あの時間枠はいろいろあったんですよ。『宇宙怪人ゴースト』とか。

園田 だからずっと『ファンタスティック・フォー』のことを『宇宙忍者ゴームズ』だと思っていた。

また、池上遼一が描いた『スパイダーマン』の漫画がありました。あれも第1話だけですが、床屋で読みましたね。

菅家 日本版の『スパイダーマン』があったと、夫がすごく興奮して言っていたんですけど。

杉山 日本の『スパイダーマン』って、まず池上遼一版の漫画があって、その後70年代末に東映とマーベルがアライアンスを組んで、特撮の『スパイダーマン』ができて東京12チャンネル(現テレビ東京)で放映される。世に『東映スパイダーマン』と言うのですけど、ご主人、お詳しいですね(笑)。

菅家 日本人が実際にスパイダーマンの役をやるんですよね。

杉山 そうです。人気ありましたよ。スパイダーマンが巨大ロボットに乗っていたりとかすごい設定でした。

バットマンの魅力

園田 フェイ・ダナウェイが魔女役で出ている『スーパーガール』(1984年)やジャック・ニコルソンがジョーカー役の『バットマン』(ティム・バートン監督、1989年)などは映画館で見ています。

グッズも好きで結構買っています。一見するとリアルなフィギュアにしか見えないバットマンのシャンプーをイギリスで買ったこともあります。

菅家 私も『バットマン』は好きで、ティム・バートン版『バットマン』も好きですが、やっぱり単なるヒーローだし、単なるヴィラン(悪役)だなという感じがちょっとして。

クリストファー・ノーランの『バットマン』になったときに、人間性がすごく深まったように感じたんですね。セリフの1つ1つがすごく胸に刺さる。ハービー・デントが「ホワイトナイト」と言われる一方、バットマンはデントの罪をかぶって「ダークナイト」として生きていくという、コンフリクトを抱えたヒーロー像にすごく惹かれました。

杉山 ハロウィンのときにティム・バートンのバットマンと『ダークナイト』のコスプレをする人がいたんですけど、ティム・バートンのバットマンの格好って、後ろを振り向けないんです。体ごと振り向かないと相手を倒せないんですよ。

菅家 確かに(笑)。

杉山 だけど、写真に撮るとティム・バートンのバットマンのほうが絵としてかっこいい。ある種のファンタジーなんですね。

それに対してクリストファー・ノーランはリアルに撮っている。また、彼はイギリス人だから、ちょっとアメリカ文化を馬鹿にしているところもあって、そこも味だと思うんです。

園田 いまのバットマンはどうですか、DCユニバースの。

菅家 ベン・アフレックがバットマンを演じる『ジャスティス・リーグ』(2017年)ですね。私は好きですけどね。「きみのスーパーパワーはなに?」ってフラッシュに聞かれて、「Iʼm rich.」と答えるあたりとか。

杉山 いいですよね。

菅家 ああいうちょっとコミカルなところもありつつ、リーダーとして頑張らなきゃと、他のスーパーパワーを持っている人たちと一緒に強大なスーパーマンに立ち向かう姿は共感できますね。

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