【三人閑談】
チャーハンを極める
2018/10/25
IHでも「パラパラ」チャーハン
土屋 家庭でチャーハンを作る悩みの1つが、家庭用コンロは中心から火が出ていないので、中心部がなかなか熱くならないということでした。中華鍋は油が中心にたまるので、そこが一番熱くなってほしいのですが。
それを考えると、いまIH対応の中華鍋も出ていますし、IHは真ん中がちゃんと熱くなってくれるので、意外と鍋さえ手に入れてしまえば、できてしまうのかなという気がします。
菰田 IHで作られるなら、最初に温かいご飯か、冷めていたらレンジでラップとかしないでレンジでチンしていただいて、ちょっと水分を飛ばすような感じにして用意する。
そこに卵を2個、普通のと、黄身だけ入れたもの2つ用意し、黄身だけのほうを溶いて、そこに塩、胡椒、あと、だし系のものをちょっと入れるといいですね。鶏ガラの顆粒だったり、ほんだし系でも、ブイヨンみたいなものでも入れるとコクが出やすかったりするんです。
油を敷いて、ご飯とともにそれを入れて、箸4本持ってグルグルやって。パラパラになったら出してもらって、残り1個分の白身をちょっと炒めて、少し茶色くなるまでやってご飯を戻していただくと白身の香りが付きます。
土屋 僕もパラパラを追求していくと、最後は黄身だけを溶く方法になったんです。
白身はとても水分が多いので、家庭の火力だと白身が入った時点で温度が下がり、パラパラにするのが非常に難しい。黄身だけだと上手くいくと気づいたんですが、香りが足りなくなる。結局、最終レシピでは黄身2つと白身ちょっとにしたんですが、最後に別に白身だけ入れるというのは素晴らしいと思いました。
山本 パラパラにこんなにこだわるようになったのは、1990年代からですか。
土屋 そうですね。90年代以降、1つは日本のお米はササニシキが作られなくなって、流通するお米がコシヒカリ系が主流になり、とても粘るようになったということもあると思うんです。家庭でパラパラにするのは昔より難しくなっているのかもしれません。
今、中国東北地方では日本米が流行っていますので、中国で日本米を使っている家庭は、チャーハンで悩んでいると思うんですね(笑)。昔の感覚でチャーハンを作ろうとしたら、「あれ?」って。
菰田 蒸していた人たちが、炊飯器で炊くようになってしまいましたからね。
山本 土屋さんのようにチャーハンに徹底してこだわるような中国人はいないという感じがしますね。
菰田 もともとのお米の質も、日本のほうが絶対美味しいですよね。
チャーハンには向かないけれど、上手く粘るところを処理できれば美味しくなる。
土屋 明治期に「南京米」という呼び名で、中国からパサッとしたお米が入ってきていたのですが、普及しなかったというのはやはり美味しくなかったのでしょうね。
山本 日本ではインディカ米は全く普及しないですね。パラパラがいいのであれば、日本でもインディカ米で作ればよさそうだけど、そうしないところが面白い。
日本人には自国のものを大切にするとともに外国からやってきたものに対しても、それをよりよいものに作り変えるのに努力を惜しまないといった独特の感性があります。
ウイスキーがまさしくよい例です。外国の酒造りにこれほどこだわる民族は他にまずいないと思います。ラーメンだって、これだけスープ作りに全神経を傾けるのは日本人くらいのものでしょう。これもまた日本人特有の文化なのかもしれません。
土屋 『男のチャーハン道』は中国本土で出るみたいなので、どんな反応が返ってくるかと思っています。
山本 それは面白い。
土屋 なぜ日本人はチャーハンごときでこんなに苦しんでいるんだ、なんてちょっと笑いながら言う感じじゃないですかね(笑)。
山本 ぜひ知り合いの中国の友人たちに読ませて、その反応を聞いてみたいですね。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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