三田評論ONLINE

【三人閑談】
チャーハンを極める

2018/10/25

「あおり」は必要か?

菰田 チャーハンって家庭では均一に混ぜることが、非常に難しいと思うんです。液体物ではないので例えば塩とか胡椒を入れたときに、それを全体に行き渡らせるには鍋を回す技術が必要になります。

皆さん、チャーハンのイメージというと、まず「あおり」という、料理人が鍋を大きく振る動作を思い浮かべる。でも、家庭用コンロで鍋を振ると火から離れてしまうので、変にご飯の粘りが出てきてしまう。

山本 あおりはいけないと?

菰田 そうですね。プロの場合、強火の中に中華鍋を置いて熱が十分に行き渡っているので、振らないとあっという間にお米が焦げてしまう。だから振っているんです。

土屋 火力をむしろ弱めるためですね。

菰田 そう、火力調整なんですね。でも、その動作だけを取って家でやってしまうと、いつまでたってもご飯が温まらない。

山本 なるほど。

菰田 火力によって、やはり作り方も変わってくるんです。ご家庭だったら火力を最大限に使うためには、火から離さない作り方がいいですね。

土屋 私も最後にたどり着いたのは、なるべく広い平面を火力で、鍋には触らないで、むしろ平べったく押し付けて、できるだけ火の力を浴びるようにすることでした。

よかったです。本に「鍋を振りましょう」と書いていたら、菰田さんに「駄目だ」と言われていた(笑)。

菰田 これは僕が教えに行ったお宅で主婦の方がやっていたのですが、お箸を4本ぐらい持って混ぜているんです。

しゃもじとかで皆さんやるのですが、お米同士がばらけるようにはなかなかいかないんですよね。お箸を4本持って置いたまんまで、グルグル回しているとパラパラになりやすいんですよ。

「私、ふだんこうやってやってます」と教わりました。

土屋 知恵ですね。

菰田 フライパン面にご飯を接地させたい、そして火が通ったものと、通ってないものを入れ替えたいときに、しゃもじよりも優れている。

土屋 そうか、しゃもじでやると一度浮いてしまいますよね。

「盛り付け」の芸

菰田 ラーメン屋さんとかが結構ラードを使っていますね。普通のサラダ油よりもラードを使うと重めなのでラーメン屋さんのものは、しっとり系のものが多いですね。

土屋 固まった感じですね。

菰田 そうですね。ポン、ポンとおたまに入れて、ボトッとやるとボコッと落ちてくる。それがラーメン屋さんだと主流。

山本 ラーメン屋さんではおたまを使って、その形のままお皿に出しますね。でも高級料理店のチャーハンは型を取りません。それには何か理由があるのですか?

菰田 やはりパラパラ系というか、それを目指そうとして、盛るときもずらしながらフワッと盛る感じです。すると、香りがよくなるというのもあるので。

土屋 おたまの底にエビか何かを入れてくれて、上からご飯で押さえてひっくり返して、上にエビが乗っているのも嬉しいですね。

菰田 私も、料理人が盛り付けている姿、好きですね(笑)。ずっと見入ってしまいます。

土屋 おたまに入れるときも振りながら入れていく、上手い人がいるんです。あれは芸だな、とつい見てしまう。

菰田 チャーハンを楽しみに食べに行ったときに一番がっかりするのが、後から来た人がチャーハンを頼んで一緒に作ってしまうときです。3個はちょっときついなあと(笑)。やはり2つぐらいまでですね、最高の状態で作れるのは。

土屋 プロの火力でもそれぐらいですか。私も主婦の方に「家庭の火力でチャーハン4人分一遍にパラパラで作りたいんです」と言われると、「ちょっとそれは無理だと思います」と、答えざるを得ないですね。

菰田 そういった場合、2回に分けたほうが早く作れますし、結果的に状態もいい。多いと混ぜるのも大変です。主婦の方は力もないので、重たいと、「もう、このへんでいいや」と諦めてしまうんですね。最初に卵を混ぜた状態で中途半端に火を通すと、逆にくっついてしまって重たい感じになってしまうと思います。

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