【三人閑談】
"接着"の世界
2017/11/01
個人の好みで買う時代
岡部 ボルトなどで締めて、完全にくっつけてしまうよりは、接着剤をつけたほうが簡単ですし、それをまた取り外すときに、ボルトをいじるとなるとたいへんですからね。その意味で、さまざまな機能を持つ接着剤が世の中でもっと求められているということだと思うんですね。
長谷川 アラビックヤマトは42年前にできたのですが、その頃女性の社会進出が増えてきて、女性が事務作業で手が汚れないようにということで、均一に塗れるスポンジキャップ付き液状のりをつくりました。
髙村 なるほど、指で糊を使わなくて済む。
長谷川 現在では、スティック糊やテープ糊もありますね。うちの社内では、「塗布面積がどうこう」とか意見もあったりするのですが、一般の人は、塗布面積がどうだからといって買ったりしないと思うんです。
髙村 たしかに、接着剤の量やサイズも、使い勝手においては重要ですね。
長谷川 最近では、一部コンビニなどに出した小さいサイズのアラビックヤマトが大変好評を得ています。
あと、文房具自体が、最近はオフィス単位で買うというより、皆さん個人が自分の好きなものを買うというようになっている。単価が多少高くても、いいものが売れる時代にはなってきている気がします。
岡部 セメダインCは、創業時から実質的にはほとんど値上げしていないですね。
長谷川 うちも全然変わっていないんですよ。ちょっと上げましたが、上げるのはやはりたいへんで。
髙村 タイに工場があるとおっしゃっていましたが、日本国内でつくるよりは安いのでしょうか?
長谷川 安いことは安いのですが、最近は高くなってきましたね。文具業界の場合、マレーシアやベトナム、タイ、中国でつくることが多いですね。
ただ、ヤマト糊のチューブとボトルのものは、相変わらず長野県の佐久でつくっています。いっぺんに大量にできてしまうので。
髙村 当社は日本とアメリカと中国と、3カ国でつくっています。
岡部 セメダインは、自動車用は海外でもつくっていますが、ほとんど日本ですね。
長谷川 小学生用のアメリカの糊なんかは全然くっつかないですよ。
髙村 アメリカ人は手が大きいから、容器もものすごく大きい。日本人では握り切れないような大きさだったりしますが、中身は決して負けていないという感じですかね。
長谷川 セメダインという名前も、たしか海外のものが入ってきたのが由来でしたね。
岡部 大正時代、メンダインという英国製のものが日本に入ってきていて、それが日本の接着剤市場を席巻していたんです。それを、攻めて追い出そうというので、セメダインと。
長谷川 攻めるの「セメ」なんですね。
アラビックヤマトもそうで、昔、アラビアゴム糊というのが日本に入ってきて、非常に高価だが使い勝手が良かったので、アラビアゴム糊と同じ琥珀色をわざわざつけているんです。
岡部 もともとは無色ですよね。
長谷川 そうです。それに「あら、びっくりよくつく」ということでアラビックにしたらしい。
多様なニーズ
岡部 グーグル・ルナ・エックスプライズ(Google Lunar XPrize)という、世界初の民間による月面探査というプロジェクトがあるんです。
日本チームやアメリカチームなど最終的に残っている5チームが、ロケットを打ち上げ月面探査機を着陸させ、月面で500メートル走らせて、その動画や画像を地球に送る、というところまでを最も早く達成したら優勝というコンテストです。
今年の12月に打ち上げるのですが、日本から参加するチームHAKUTOの月面探査機に、セメダインの接着剤が使われているんです。宇宙で使うので、真空状態でのアウトガス、宇宙特有の温度環境への耐久性について、ずいぶん試験していましたが、なんとかいけそうなところです。
髙村 宇宙空間となると、やはり軽量化が必要なので、ボルトなどよりも接着剤を使うことになりますね。これは飛行機や自動車でも同様です。ただ、信頼性という点で、やはりボルトのほうが安心だというイメージもあるようなので、そこはどう理解していただけるかという課題も出てくるでしょうね。
岡部 今の課題として、ポリプロピレンという材質にはなかなか接着剤がつかないといわれていますので、これは解決していかないといけないと思っています。
髙村 求められている接着剤というところだと、例えば食品用の接着剤で、もっと使いやすいものをというニーズはあります。
長谷川 肉などもくっつけるのは接着剤ですよね。あと、医療用、手術用の接着剤はよく使われていますね。
髙村 そうですね。しかも人間だけではなくて、動物の手術にも使われているという話を聞きました。
また、より低温の環境、そして高温の環境で接着剤を使いたいというニーズもあります。何100℃とまでいかなくても、100℃程度でコンスタントに使いたいということですね。
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