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【三人閑談】
"接着"の世界

2017/11/01

変わった使い方

長谷川 ちょっと変わった商品ですが、たとえば卓球のラバーと板をつける接着剤もうちはつくっています。一流の選手は対戦相手のタイプによってラバーを貼り替えるらしいですね。

髙村 接着剤をほかの用途で使っている事例は、私も時々聞きます。例えば、瞬間接着剤は指紋の検出にも使われているんですよ。

ある県警さんとタイアップして、指紋検出用のキットをつくりました。指紋は、普通のなめらかなテーブルの上なら簡単に採れるのですが、コンクリートとか、表面がでこぼこしているところでは採りにくい。そこにアロンアルフアを使うと採りやすくなるそうです。当社の技術員が県警に、「こうやると検出しやすいですよ」と講習に行ったりしています。

岡部 どういうふうに使うんでしょうか。

髙村 瞬間接着剤は、蒸気が出るんですね。容器の中に入れて蓋をかぶせて、その中で蒸気を当てると、指紋が白化して出てくるんです。

また、おすすめはしてはいないのですが、ギタリストの方が、爪が割れないように、演奏する前に塗っておくということも聞いたことがあります。また、今度東京オリンピックの競技になるボルダリング(クライミングの一種)の選手も使用しているそうです。

長谷川 手に悪くないんですか。

髙村 アロンアルフアとほぼ同じ成分で「手術用」もつくっていて、三共さんで出しているのですが、体に悪いということはないです。これも予想外の使い方ですね。

剝がしやすい接着剤

長谷川 経産省の商業統計によると、いわゆる文具店がどんどんなくなっていまして、実は平成19年に11806店あったのが、平成26年には7269店。減少率でいうと38%ぐらい減っていて、1日2店舗減っている計算になります。ただし、文房具の売り場の面積は、広がっているのです。今は本屋さんや雑貨屋さん、コンビニ、スーパー等でも文房具を置いていただいていますね。

髙村 接着剤は、日本でも年率数%ですが、使用量は増えているんです。昔は他の接着剤メーカーとの競争だけ意識していればよかったようなところもあるのですが、最近は、まさにヤマトさんのところの粘着テープとか、接着剤とどちらを使ったほうがいいか迷うような商品も出てきていて、境目が非常に分かりにくくなってきていますね。

長谷川 剝がしやすいということだと、「貼って剝がせるテープ」がありますからね。うちも使わせてもらっていて、たとえば新車を運ぶとき、傷つかないようなラップテープというのがあります。いかに綺麗に剝がれるかは素材で違う。糊でも、今は「剝がせる糊」がいろいろあります。

髙村 昔はなんとかくっつけばいい、いろいろな素材に接着できればいい、という程度でしたが、やはりニーズが広がっていると感じます。つくだけではなくて、必要なときは剝がせるほうがいいとか、それだけわれわれの仕事もまだ開発の余地は十分あるんだなと思います。

長谷川 アロンアルフアでも剝がせるほうがいいという要望はあるわけですか。

髙村 よく、「指についてしまったので剝がしたい」という方はいらっしゃいます。お湯の中でしばらく揉んでいただければ割と簡単に剝がれるのですが、そうすることができない素材もありますね。

190度ぐらいまで熱すれば接着剤は分解してしまうんですが、そこまで温めたら素材が傷んでしまうから、熱せられない。剝がすための専用の液もあるのですが、時間がかかる。つけるのと剝がすのをセットと考えると、剝がすほうももう少し知恵を絞らなければいけないとは思っています。

長谷川 昔、女子高生の間でルーズソックスが流行ったとき、ソックタッチというのがありましたよね。

髙村 ああ、靴下がずれないように。

長谷川 アラビックヤマトで留めるのがいいというお客様もいたんですが、本来、紙などの接着用途ですから、用途外の利用なのでおすすめ致しかねるところもありました。

髙村 以前は、粘度が高くて塗りにくい接着剤を、シンナーみたいな溶剤に溶かして使ったりしたんですが、環境問題や手間などが理由で、溶剤を使わない接着剤も、時代のニーズで出てきていますね。

今は、光を当てて固めるというものもあります。ネイリストの方が使うんですが、ネイルのデザインができたところで、光を当てて完全に固める。

長谷川 アメリカでは、御社の商品をネイル用で売っていますよね。

髙村 そうですね。日本でもあるのですが、ネイリストさんは最近、光で固めるほうを使うケースが多いように聞いています。

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