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【三人閑談】
"接着"の世界

2017/11/01

海外での使われ方

長谷川 アロンアルフアは海外でも使われていますね。

髙村 日本ではアロンアルフアという商品名で売っていますが、アメリカをはじめとする約20カ国では、「クレイジーグルー」(Krazy Glue)という名前で販売しています。アメリカは日本と違って、DIY(日曜大工)をする文化が根づいているようです。

日本で、一般の方が使う1人あたりの消費量は、1年間で44グラムだそうです。アメリカは、正確な数字はないのですが、それよりははるかに多い。

われわれの世代はプラモデルなどでまさにセメダインCなどを使った記憶がたくさんありますが、われわれの子どもの世代はミニ四駆などで、もう接着剤を全然使わない。モーターだとかタイヤを嵌めるだけですからね。さらに最近はゲームなどが中心で、模型そのものをつくらなくなりました。

でも、日本でもアメリカでも、小・中学生が工作などでアロンアルフアやクレイジーグルーを使っているという話を聞きます。当社でも各地で子ども向けの工作教室を開催しています。

長谷川 液状糊を使う文化というのはアメリカにはまったくないんですね。すべてテープとかスティック糊。でんぷん糊はフランスやイタリアでは使われています。フランスにはクレオパトラ、イタリアにはココイーナという有名なブランドがあります。あと、東南アジアでも使われていますね。うちも糊のメインの工場はタイにあります。

岡部 うちも中国などにスーパーXという弾性接着剤の製品を輸出しています。中国市場ではそれなりに知名度が上がっているのですが、実は偽物もけっこう出回っていて、神経を尖らせている部分もあります。

髙村 世界的に見ると、接着剤を使うというのは、ある程度生活レベルが高い国でないとなかなか難しいように感じます。工作をする余裕があるかどうか、あるいは、補修をしたいぐらい貴重なもの・伝統的なものがあるか、ということですね。

長谷川 筆記具でいうと、国によって紙の質、ボールペンの質が全然違いますよね。

インドなど海外でも現地法人を傘下に入れて展開しているメーカーに対して、当社も技術供与ででんぷん糊などを一緒にやっているのですが、文化が違うので非常に難しいですね。

髙村 インドあたりでは糊を貼ったりしないですか。

長谷川 貼ることは貼るのですが、大きな容器に入った糊をまず自分で薄めて使うんです。だから、障子を貼るときみたいな感覚で糊を買う。それだと腐ってしまいますよね。

中国で、ある時期にアラビックヤマトがたくさん売れたのですが、それは政府が買ってくれたんです。中国の糊だと公文書が剝がれたり、腐ったり、鼠がかじってしまうこともあったんです。

アロンアルファ

体にやさしい成分でつくる

髙村 接着剤の世界は、100年近く前に開発されたものがいまだに商品として残っていたりして、ある意味で珍しい世界ですよね。

岡部 セメダインCもまだ残っていますからね。

髙村 膠みたいな昔の接着剤も、いまだに使われていますね。こういう天然系の接着剤は歴史があります。

長谷川 麩糊(ふのり)とかもそうですね。

髙村 麩糊もそうだし、米粒だって、ちゃんとつければものすごく強力な糊になる。

長谷川 米粒は強力です。米は煮ると糊になりますが、実は加熱製法から切り替えてでんぷん糊をつくったのがうちなんです。加熱処理ではなく化学処理でやる、冷糊法という製法で特許を取った。

うちの商品は比較的人にやさしいというか、例えば、でんぷん糊にしても現在原料はタピオカでんぷんです。小さなお子様も使う商品なのでアレルギー等の情報も加味して材料の選定をしています。当社は、昭和58年に、原料をタピオカでんぷんに変えたのですが、実際に誤って舐めても安心な商品です。

子どもからお年寄りまで幅広い層がお客様ですから、品質には特に気を使っています。海外からの輸入品で、3本100円で売っているものと、うちの1本100円のものだと、1本100円のほうが全然売れるんですよ。

髙村 やはり品質がいいからですよね。

長谷川 ただ、うちの商品だと、何かあるとクレームが来ますが、3本100円のものならこんなものだと誰もクレームをつけない(笑)。

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