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【三人閑談】
ウルトラセブン50年

2017/10/01

アンヌの髪の秘密

碓井 僕もつい実相寺監督を話題にするし、また実相寺マニアという方もたくさんいらっしゃいますが、間違ってはいけないのは、実相寺作品はあくまでも「異色作」であるということ。真っ当なというか(笑)、本流の作品群があったからこそ、実相寺監督はあんな「やんちゃ」ができたのです。

ひし美 そうですね。

碓井 ウルトラマンもセブンも、実相寺監督が安心して異端でいられたのは、一方にほかの監督さんたちがいて下さったおかげだと思います。

ひし美 満田さんとかね。それでメリハリがあった。

桑畑 満田監督は結構たくさん撮られていますが、思い出みたいなものは?

ひし美 満田監督はもう最初から最後まで熱心にやっていらっしゃった。ご自分の監督じゃないときまでよく顔をのぞかせて。ワイアール星人の回(2話)とピット星人の回(3話)の現場が私の初日で、それは野長瀬三摩地(のながせさまじ)監督の回だったんです。

そのときアンヌの髪型はアップに結っていたんですが、様子を見に来ていた満田監督が、「それじゃ都はるみみたいだ。髪を下ろした方がいい」って意見されて、その通りに下ろしたんです。おかげで午前に撮ったカットと、午後に撮ったカットで髪型が繋がらなくなってしまったんですよ(笑)。

碓井 ずっと不思議だったんですが、満田監督の回だけアンヌ隊員の髪が長くなりますよね。あれは理由があるのですか?

ひし美 あれは偶然。

碓井 なんと!(笑)

ひし美 その前に飯島敏宏監督のバンダ星人の回(38話)かなあ、病院で男の子が外国の医師に心臓手術してもらうシーンがあって。

碓井 「でも僕、手術受けたくない」とかやっていた。

ひし美 そうそう。「ダンさんが来ないとやだ」と言う。それで私が普通の車で行くと、クレージーゴン(バンダ星人が地球に送り込んだロボット)に遭遇する。

あのときの自分の髪形が、短くしてパーマかけたから、なんかベティーさんみたいでいやだったんです。

その後、髪をビッと上げてウィッグをつけて、前髪だけ自分の髪にして、満田監督に「私、今の髪型いやだからこういうふうに変える」って言うと、「お〜いいじゃないか」と言ってくれて、満田さんはずっとそれにした。それで、最終回のあの髪の毛フワーッというのになるんです。

碓井 ええ、きれいな髪で。

桑畑 あれもやっぱりいいですよね。

ひし美 満田さんも結構髪の毛までこだわる方だから。

隊員服のインパクト

碓井 ひし美さんご自身は、出演する前に、ウルトラQとかウルトラマンをご覧になったんですか。

ひし美 いや、全然見てないです。

碓井 いきなりこのセブンに。

ひし美 いきなりセブンです。ただ、ウルトラマンを1話だけ見せられました。そのとき、あのオレンジの隊員服がいいなと思っていたら、ブルー・グレイの服になって(笑)。

碓井 でも、あの制服が格好よかったですよねえ。

ひし美 その当時は、もっと華やかな色がよかった。だけど考えてみると、あのブルー・グレイの服は、私みたいな胴が太い人は、目の錯覚でちょっと「キュッボン」に見られるのでよかったんですけれど(笑)。スタイルよくないのに、みんな錯覚してくれる。

桑畑 でも、それでアンヌ隊員が初恋だ、みたいな男の子はいっぱいいるわけですよ。

碓井 そうそう。当時はワンクール(3カ月)ではなく、1年間の放映ですから、見ている少年たちにも、しっかりアンヌ隊員が刷り込まれてしまうわけですよ。ひし美さんとアンヌを、僕らはもうほとんど一体化して見ていました(笑)。

ひし美 でも、当時、放送されるとテレビというものはもうそれきりなんで、意外と私たち俳優は、終わったら「はい、終わった」という感じなんですよ。森次晃嗣(もりつぐこうじ )さん(モロボシ・ダン役)なんか先に撮影終わったら、もう次の撮影に行ってしまう。

碓井 以前、『北の国から』で蛍を演じた中嶋朋子さんとお話ししたときに、何歳になっても「蛍だ、蛍だ」と言われ続けて、嬉しいけれども、「別の私も見てよ」という反発もあった、と仰っていました。そういうことはありませんでした?

ひし美 私は「アンヌだ、アンヌだ」と言われたことない。

桑畑 そうなんですか?

ひし美 子供番組だから、子供がそんなこと言えないじゃないですか。大人になると、ほかに、麻丘めぐみだとか興味がどんどん変わっていって(笑)。だから、「アンヌだ」って騒がれたりしたことは全然ない。

桑畑 でも、実際にやられていた1年間で、街に出ると「アンヌだ」と言われたことはないですか。

ひし美 ないです。ダンもほぼない。サイン会をしたときに、ガラスも割れそうになるほどデパートに集まって、これ以上は危ないからって途中で止めたことがあったんです。それで着替えて、観衆の前を通ったら、みんな知らん顔だもの。

碓井 そうか、ウルトラ警備隊の隊員服じゃないと分からない(笑)。

ひし美 そう。だから、あの制服がインパクトなんですよ。

桑畑 あれ自体がもうアイコンになっている。

ひし美 私は随分してからなぜか『プレイガール』というテレビドラマに出たんです(1973年)。

碓井 見ました、見ました。

ひし美 私の登場回で視聴率が倍ぐらいに上がったんですよ。スタッフの人は、「なんでだろう」と不思議がっていたんです(笑)。私は、ひし美ゆり子の名前を新聞の番組表で見た人たちが、ああ懐かしいと思って見てくれたんじゃないかなと思ったの。

碓井 『プレイガール』はかなりセクシーで、僕もびっくりしました。「真面目なアンヌが不良になっちゃった」と思って(笑)。

ひし美 そういう方が多かったみたいです。それで視聴率が上がった(笑)。子供のときに見たアンヌが、もうちょっと大人になった少年たちとタイミングが合ったというのかな、ちょっとお色気路線で。

碓井 はい。ドキドキしました。

ひし美 だから、こんな変わった女優はいないと思う(笑)。

碓井 振り幅がすごいですよね。

ひし美 そう。180度どころか、360度ですよ。学校映画のお母さん役をやったり『好色元禄㊙物語』に出たり。それもたったの9年間で。

桑畑 その中でも、やはりセブンのインパクトがすごく強いですよね。

ひし美 セブンという作品自体の力がすごいんですよ。

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