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【三人閑談】
ウルトラセブン50年

2017/10/01

忘れられない夕陽の画

桑畑 技術が進んでいくと、結局は人と人との信頼関係が大事だということになるのですが、そこでおもしろいのは、「狙われた街」(8話)です。

「我々人類は今、宇宙人に狙われるほど、お互いを信頼してはいませんから」という、最後のナレーションがある。これは非常に皮肉だなあと。

ひし美 あれは浦野光さんのナレーションが効いている。誰が書いたのかしら。

碓井 実相寺監督が書き加えたみたいですよ。

ひし美 実相寺さんが! それは冴えていたわね。いい言葉だもの。

桑畑 この回も、今でも名作と語り継がれている。

碓井 いやあ、確かに、あの四畳半のちゃぶ台での「差し向かい」は、かなりの衝撃ですもん(笑)。オンエアを見ていた当時も、子供たちは「今回は、なんかいつもと違うなあ」という気持ちはあったんです。大人になってから、あれは実相寺という変わった監督がつくったんだとか、だんだんわかってきて納得するんですけど。

桑畑 あと、やはりメトロン星人のデザインですね。これがすごく頭に残る。ものすごくカラフルでありながら変な形をしていて。

最後は夕陽の中ですごくきれいな映像だし、子供心にもやっぱり刷り込まれる。

碓井 あの夕陽のシーンは忘れられないですね。

桑畑 碓井さんは実相寺さんと一緒にお仕事されていた際、どのようなことを感じられていましたか。

碓井 僕は亡くなる頃まで、4半世紀もお付き合いをさせていただきました。実相寺監督は、どんな画を撮りたいかが第1で、ある意味では役者さんをオブジェみたいに扱いますから、時々ハラハラしました。だからこそ、他の演出家の方たちとは違うものになったわけですが。

ひし美 噂によると、TBS時代に美空ひばりさんを撮ったときに顔を撮らないで足を撮った?

碓井 いや、超アップで鼻の穴まで撮ってしまったんです。それで、もう大騒ぎ。


ひし美 怒られたらしいですね。

碓井 もちろんですよ。とにかく、普通に撮ればいいものを普通に撮らない人だから。ただの歌謡ショーなのに、「美空ひばりの鼻の穴」じゃあ、どっと抗議がきますよ(笑)。

桑畑 でも、当然意図があったのでしょう。

碓井 いや、決まりきった映像を撮りたくなかっただけだと思います。

ひし美 それが彼の映像の信念ですね。テレビ局のディレクター的なものは合わなかったんじゃない?

碓井 逆にそういうことがあったおかげで、円谷プロへ行って監督はウルトラシリーズに出会う。結果的にはよかったのかもしれない。

ひし美 4本しかセブンは撮っていないのにすごいですよね。もう、今年の50周年を機に早く12話(「遊星より愛をこめて」、実相寺監督)を解禁してほしい。

桑畑 そうですね。今、欠番扱いという形になってはいますけれど。

碓井 ちゃんと見てもらえば、当時誤解されたということが明らかになると思うんですよ。決してそんなおかしなものではないわけで。

ひし美 そうそう。あれを没にしたらもったいないですよ。私はもう20年以上前から「12話解禁!」って言っているんです。

桑畑 いわゆる同人の方々が、12話だけのムックをつくったりしていましたね。

ひし美 「12話会」というのがあるんですよ。

桑畑 ぜひこの50周年をきっかけにして、もう1度この12話の再評価も含めた形で盛り上がってくるとうれしいと思うのですね。

メトロン星人の知性

桑畑 碓井さんは印象に残っている宇宙人とか怪獣、ロボットというと?

碓井 僕の場合は、やはり実相寺監督「狙われた街」のメトロン星人ですね。彼らは知性も相当なものですが、当時の子供たちは、地球以外にも、これぐらいの生物が存在するかもしれないと想像することができた。

なにしろ「セブン」の放送から2年後の1969年には、人類が月に立ってしまうという時代ですからね。今よりも、社会全体がもつ科学や技術に対する信頼感、そして宇宙への関心や憧れは強かったです。

それと、「狙われた街」で描かれていたのは、人間同士のつながりなど実はもろいものであるとか、すごくアイロニカルな世界観でした。これも驚きで、大人というか人間は、少年たちが思いもしない別の側面も持っていることを教えてくれた1本でもあります。

桑畑 なるほど。私の場合、ウルトラホークもそうですが、やはり未来に対して夢が持てた時代でしたから、未来はどんなことができるようになるんだろうと思うなかで、キングジョー(14・15話)というのはものすごく印象的なロボットでしたね。

ひし美 合体するのね。

桑畑 そうです。分離して合体してロボットになるというあの発想がよかった。それからまたすごく強くて、ウルトラセブンも敵わないロボットが出てきたということで、ものすごく印象に残っていますね。

ひし美 キングジョーも人気ありますよ。

桑畑 あと、カプセル怪獣ですね。

碓井 怪獣といえば巨大なものというイメージなのに、それをカプセル化するアイデアがおもしろい。

桑畑 仲間の怪獣もいるという発想ですからね。

碓井 後のポケモンに通ずるような感じさえしますものね。

桑畑 まさにそうですね。

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