【三人閑談】
世界に広がるBENTO
2016/12/01
先に「入れ物」がある
ベルトラン アメリカやベルギーもそうですが、向こうではサンドイッチとジュースと果物を箱に入れず、そのまま持って行きます。だから、ランチボックスは運ぶためだけの道具です。日本だったら、この入れ物に合う何かを作らないといけない、入れ物のためにメニューを考えるわけです。
加藤 なるほど、形のあるサンドイッチを運ぶためだけに入れるのとは違いますね。
ベルトラン そうです。結局、入れ物のほうが大事なのかもしれません(笑)。私も、丸い弁当箱だったらパスタを入れたいし、四角い箱だったら丼にするとか。
前田 フランスの方は外でごはんを食べるとき、リュックサックの中に紙で包んだ大きなパンとかを入れて、おかずはどうするのですか?
ベルトラン 子供の遠足では、タッパーの中にサンドイッチとサラダとかを入れます。あと、バナナや水筒は別に持ちますね。だから箱を3つぐらい持って行きます。
前田 そのまま食べられるものが入っていて、加工して細かくしたものは入っていないわけね。
ベルトラン そうですね。日本の弁当箱は小さいから運びやすい。仕切りもあるし、1段、2段、3段と分けたりできるので、小さい箱でもフルコースを入れられます。これは大きな特徴だと思います。
前田 3段に分かれてそれぞれ違ったものが入っているというのは、驚きでもあるでしょうね。しかも開けてみないとわからない。
ベルトラン イギリスの「black+blum」という会社が作っている「BENTO BOX」は、蓋が透明で、中身が見える。日本でもよく売れていますが、でも中身が見えると弁当っぽくないというお客さんもいます(笑)。
あと、最近はパリで、お弁当を食べられるお店が多くなりました。最初から中身が入っているのではなく、松花堂の弁当箱に、おかずを自分で選んで入れて、店内で食べるというスタイルです。
前田 なるほど。自分の好きなものを取る。
ベルトラン ええ。あと、高級ホテルでもお弁当が食べられるようになってきています。ルームサービスで。だから、ホテルからも弁当箱の注文がよく来ます。
前田 お弁当もたいしたものですね。そこまで格が上がるなんて(笑)。ちょっとした高級料理になっているんですね。
ベルトラン はい、天ぷらとかお刺身とかが入っています。あと、高級レストランではおせち料理を入れた弁当も頼めます。
前田 ミシュランに頼んで、お弁当の二ツ星、三ツ星を選んだらおもしろいかもね(笑)。
「冷めてもおいしい」お弁当
前田 私はお花見弁当箱を集めていますが、実は集めるだけではなく、道具というのは使ってこそ道具だと思っています。
慶應の卒業50年記念で、新宿御苑に同期で集まって江戸時代のお花見弁当を囲みました。担ぎ箱という大きな箱に金具が付いていて、そこに棒を通し、昔はこれを召使がいくつもつなげてエッサホイサと担いでいくものです。そういう担ぎ箱付きお花見弁当を実際に弁当箱として使いました。
それを見て外国人の方がびっくりしていました。つまり、年代物の美術工芸品を普通に使っているわけです。使ったあとはきれいに中を洗って、飾ることもできる。加藤 インテリアになるということですね。
前田 そうです。実用性と芸術性を兼ね備えているのが日本の弁当箱です。
加藤 その実用性の部分、つまりサラリーマンや子供が毎日持ち歩くものとして丈夫で、使いやすい道具の部分がすごくおもしろいと思っていました。
いまのコンビニ弁当は、みんな温めて食べますよね。でも、昔はそんなに簡単にお弁当を温めることができなかったから、作りたての朝は温かくても、食べるころには冷たくなっている。僕が一番おもしろいなと思ったのは、冷めてもおいしいようなものを作るというところです。
前田 たしかにそうですね。
加藤 そもそもお弁当は冷たいもので、だけれども箱にきれいに詰まっている。そこのバランスですね。つまり、冷たくてもさびしくならない。見た目もそうだし、誰が作ってくれたかということもこの小さい箱の中からうかがえる。だから冷めていてもおいしく食べられるのではないでしょうか。
ベルトラン 冷めていても温かいものを感じる。
加藤 ええ、そこはうまくできているなと思いましたね。
前田 ヨーロッパでもお弁当ってだいたい冷たいものでしょう?
ベルトラン 昔、フランスではガメル(Gamelle)というものがありました。あまりイメージの良いものではなくて、残り物をステンレスの丸い容器に入れて、火の上で煮込んでスプーンで食べる。ナポレオン時代の軍隊で食べていたようなものです。犬用のお碗も同じ「ガメル」という言葉です。
前田 そうなんですか。
ベルトラン やはりお弁当は、見た目も味も大事にする。最近は温められる弁当箱の人気が高いですね。いまよく売れている弁当箱も、電子レンジ対応のものです。
そもそも、昔フランス人は箱のままで食べることはしませんでした。タッパーに入れて仕事場に持っていって、お昼のときに出して、お皿に載せて温める。
加藤 そのままでは食べないのですね。
ベルトラン そう。箱で食べるなんてありえなかったんです。ナイフとフォークを使うと箱が傷ついてしまうからですね。お弁当だと、最初から一口サイズに切って入れています。
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