三田評論ONLINE

【三人閑談】
音楽家になるなら慶應へ行こう

2015/12/01

慶應出身の音楽家たち

藤岡 今年の春は冨田さんの「源氏物語幻想交響絵巻」をやらせていただいた。邦楽器と京言葉が見事に融合した大変な傑作で、京言葉がまるでオペラのように見事にはまって。

京都と言えば、吉松さんが「3つの水墨画」という曲を京都府物産協会のために書かれていてそれも素晴らしい。今年の8月に大オーケストラでやったんですよ。

こうやって、いま生きている作曲家で素晴らしい曲を書いている方が身近にいて、しかもそれが学校の先輩というのは、本当にやりがいがありますよ。

吉松 最初に大阪で僕の曲がやられたとき、指揮者が拍手をするから舞台に上がろうと思ったら、ガードマンにいきなり止められた(笑)。「なんで舞台に上がるの?」「いや、作曲家なんですけど」って。

作曲家が生きてホールに来ているということ自体、珍しかったんですね。

藤岡 そんなこともありましたね。僕と吉松さんがよく接する慶應の音楽家というと、冨田さんより少し下で、「左手のピアニスト」として有名な舘野泉さんがいらっしゃいます。

吉松 舘野さんとは最近よく仕事をさせていただいていますね。

藤岡 あと、10年ぐらい前に僕が慶應のワグネルを振りに行ったときに、トロンボーンの女の子がどうしてもプロになりたいと僕に相談してきた。確かにその子は上手だったんですが、女の子だし、「難しいからやめときな」と言ったんですよ。

3年ぐらい前に何気なくテレビを見ていたら、ベルリンフィルの中で彼女が吹いているんで、腰を抜かしましたよ。清水真弓さんというんですが、彼女はドイツの音楽大学を出ていま、南西ドイツ放送交響楽団の首席奏者です。ベルリンフィルにも、よくエキストラで呼ばれている。

また、僕の2つ下のオーボエの伊熊啓輔君がニューヨークフィルでコーラングレ(イングリッシュホルン)を吹いている。指揮者もやって、「王様と私」のブロードウェーのミュージカルの指揮をやって大成功している。

吉松 渡辺謙さんが出ているやつですね。

藤岡 なんといったって千住真理子さんは同級生だし。

吉松 僕も2つぐらい上に松任谷正隆さんがいる。10年ぐらい上に「ルパン三世」の大野雄二さんがいて、学生時代から本当にプロ級の演奏だったそうですね。

冨田 大野君は早くからエレキピアノがうまくてね。

藤岡 僕がびっくりしたのは、小川理子さんという、パナソニックの役員になって、テクニクスブランドを復活させて活躍している塾員の方が実はジャズピアニストなんです。こっそり銀座のクラブに聞きに行ったんですけど、彼女のピアノは本当にすごい。

あんまりすごいんで、関西フィルで「ラプソディ・イン・ブルー」を一緒にやってもらったら、もう、プレーヤーがびっくりしちゃって。

吉松 ストライドピアノというんですが、ちょっと独特なジャズなのね。

音響のメカニズム

藤岡 冨田さんがシンセサイザーを手に入れられたとき、当時誰も楽器だと思わなくて、軍需関係のものかと思われて税関を通らなかったそうですね(笑)。

冨田 僕も最初、楽器と思わなかったもの。「えーっ」と思ってね。

吉松 キース・エマーソンが弾いている写真を見せて税関を通ったんですよね。

逆に武満徹さんがニューヨークで「ノヴェンバー・ステップス」をやったとき、尺八奏者が、これは楽器じゃないだろうと言われたそうです。実際に鳴らしてみろと言われて、それで税関を通った。

冨田 僕は鳴らしてみろと言われても、鳴らし方が分からなかった(笑)。これからそれを研究するわけだから。

藤岡 シンセサイザーが出始めた頃のころのFM雑誌って、すべてのジャンルの音楽が記事や広告になっていてよかったですよね。

僕はクラシックが好きだったけれど、自然とロックの情報も入ってくるし、冨田さんのアルバムがチャートインしてしたのも知っていましたからね。

吉松 僕もプログレなんかを聞き始めたのは、やっぱりFMでした。ワグナーを聴いたすぐあとに、ピンク・フロイドとかに夢中になって(笑)。

エアチェックといって、毎日テープで録っていましたよね。

冨田 僕らの頃は、エアチェックはできなかったんだよね。戦時中は。

吉松 でも、そのほうが必死になって聴くというのはありますよね。

冨田 そうそう。それでいい曲は、待ち構えていると必ずまたやるんですよ。

「春の祭典」は、最初にアメリカ軍の放送を聞いたときは、何か地球の底からメラメラした炎が噴出するというような音に聞こえた。でも、あとでスコアを調べてみると、割と単純でしょう。余計なものをみんな取っていっちゃうと、何だ、こんなものかと。それよりもバッハの構造のほうがよっぽど難しい。

藤岡 バッハのあの立体的な3声、4声というのはすごいですよね。

吉松 伊福部昭さんがたしか、やはり初めてクラシックを聞いたときに、「春の祭典」は初めからよく分かった。ベートーヴェンの方が実はよく分からなかったと言っていましたね。

冨田 僕は、戦時中は米軍のB29爆撃機とかグラマン戦闘機の音もおもしろかったね。

藤岡 おもしろいとか思っている余裕があったんですか(笑)。

冨田 その延長として「春の祭典」があった。

吉松 やっぱり、音響のメカニズムみたいなところからくるんですね。でもハーモニーの感覚みたいなところは、冨田さんは、ストラヴィンスキーっぽくはないですよね。むしろグレン・ミラーのほうからきているんですか。

冨田 そうかもしれないし、自分でもよく分からないんですよ、なぜこうなっちゃったのか(笑)。ただ、きちんとした指導者がいて、その下で音楽を習ったのではないことは確かです。

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