三田評論ONLINE

【三人閑談】
音楽家になるなら慶應へ行こう

2015/12/01

150年式典のファンファーレ

藤岡 僕は冨田さんの曲では「キャプテンウルトラ」とか「マイティジャック」が大好きで、最近音楽を聞くために、ドラマをDVDで箱買いしちゃったんですよ。もちろん「ジャングル大帝」も「リボンの騎士」も好きで。

冨田 やはりアメリカのミュージカルとか、そういう影響はあるだろうね。ただ、偉い指導者から「音楽とはこういうものだ」みたいな指導をされた経験はないから、それだけはよかったと思う。また慶應という、この環境がいいんでしょうね。

吉松 平尾貴四男先生につかれたときも、「音楽とはこういうものだ」的な教えはなかったのですか。

冨田 いや、ないね。あの人は、僕が知りたかった、オーケストラの音響的な捉え方ができるような指導の仕方なんだ。「こうあるべきだ」というようなことは決して言わない。

藤岡 吉松さんも、そういう教え方には反発していたんでしょう。

吉松 僕は、「教えられてたまるか」みたいな、ひねくれたところがあったから。冨田さんとは逆に、10代、20代は恵まれないで、ずっと怨念で来ていたし。

藤岡 僕はこのお二方との出会いにはすごく感謝しているんですよ。吉松さんのほうが先なんですが、お二人とも慶應出身って全然知らなかった。吉松さんの「朱鷺によせる哀歌」という作品をイギリスで聞いたときにすごい衝撃を受けて、絶対に僕はこの人の曲をやろうと思った。

冨田 あれは傑作ですよね。

藤岡 冨田さんとの出会いはもうちょっと後になるんですが、慶應の150年の記念式典でのファンファーレ。僕はそのとき初めて冨田さんと一緒に仕事をしたんですが、競技場の四方で、一貫校はじめ慶應の学生の吹奏楽部がそのファンファーレを吹くわけ。そしてその真ん中で「藤岡君、この曲を振ってくれ」という。競技場の真ん中で振って、合うわけがない。

冨田 全部1秒ずつ遅れていくんだ(笑)。

藤岡 「先生、こんなの合うわけありませんよ」と言ったら、冨田さんが、「僕はこれを月と地球でやろうと思っているんだ。こんなのは簡単だ」と。もう、無茶苦茶なことを言われて(笑)。

でも奇跡的にあれは上手くいきましたね。

吉松 それはずれるという前提で書いたわけではないんですよね。

冨田 みんなジャストです。

藤岡 もう、やらされるほうはたまらない。

「合いすぎる」と気持ち悪い!?

藤岡 作曲家は結構、目茶苦茶なことを言う方が多いんですよ。

イギリスのシャンドスという一流レーベルが何でもいいから録音してくれることになり、僕は吉松隆をやると言った。それで初めて、海外レーベルが日本人の作曲家の作品をBBCフィルという一流のオーケストラで録っていくプロジェクトが始まり、吉松さんが「交響曲第3番」を書いたんだけど、いま思えば初演でレコーディングだもんね。

吉松 そう。誰も聞いたことがない。

藤岡 普通はどこかで1回は初演をして、手直ししてからレコーディングするんだけれど、いきなり初演でレコーディング。それが4楽章全部、すごく上手くいった。これでクリスマスだ、パーティーに行くぞ、終わりだ、よかったねと言って、録音ブースに戻ったら、吉松さんが一人で怒っている。

「藤岡、やり直してこい」と。何がよくないんだと言ったら、「合いすぎている」と言うんだよね。「壊してこい。こんなきれいな演奏、俺は聞きたくない」と言う(笑)。

指揮台に戻って、もう1回、録り直しますと言うと、皆が「何がよくなかったの?」って聞くでしょう。しょうがないから、「We are too much together.」とか言って(笑)。アンサンブルが良すぎるって、もう本当に作曲家の先生方は目茶苦茶なことを言われるから。

吉松 せっかく上手く鳴らないように難しいパートを書いているのに、ぴったり合うと気持ち悪いじゃない。大河ドラマをやったときも、合いすぎるってN響の人に言って喧嘩になった(笑)。

でも、ロールスロイスが走っているような感じじゃなくて、オートバイで走っている、あの風を切る、いつ空中分解するかという感じが欲しいんだと言ったわけ。

藤岡 オートバイといえば、冨田さんは70過ぎまでずっとハーレーに乗っていらして、大阪万博のときは東京と大阪の間をハーレーで往復していらしたとか。片道何時間ぐらいかかったんですか。

冨田 新幹線の倍の時間。あの頃の新幹線は東京から大阪まで3時間だから6時間見ておけばいい。

東京から大阪まで、東西に地球を横切ることになりますよね。そうすると、地球は磁石だから北極から南極まで磁力線が通っているわけで、そこを東西に横切って走ることになる。

乗り物の中で唯一、オートバイは裸で走っているんですよ。だから磁力線が唯一、身体を通るんです。

藤岡 磁力を感じるんですか。

冨田 感じる。

藤岡 えーっ。そんなの聞いたことない。

吉松 それ、渡り鳥と同じじゃないですか(笑)。

冨田 ピップエレキバンを身体中に付けたときと同じです。ハイになってくるんですよ。いや、あの感覚が好きでねえ。それで、肩こりが全然しなくなっちゃった。

藤岡 ハーレーで大阪に行くことによって、肩こりしなくなる(笑)。

冨田 ただし、速く走らないとダメ。少なくとも東名を100キロでね。

カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事