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倉田 敬子:国立国会図書館長に就任して

2024/11/15

図書館・情報学専攻に入り直した理由

──倉田さんは、法学部政治学科を卒業された後、図書館・情報学専攻に学士入学されましたが、いつごろから図書館情報学に関心をお持ちになったのでしょう。

倉田 関心は全くなかったです(笑)。私が大学を卒業する時、当時はまだ男女雇用機会均等法以前なので、4年制大学を出た女性の就職先は基本的にほぼゼロです。当時女性の4年制大学卒を採ると言っていたのは、有名な企業では数えるほどでした。

その時、慶應義塾が図書館・情報学科の卒業生に限って4年制大学卒の女子を採るということでした。図書館員は重要だと認められていて特別扱いだったのでしょう。そこで、図書館の仕事は面白そうだったので、学士入学をしました。図書館情報学自体に興味があったわけではないんです(笑)。

──入られていかがでしたか。

倉田 津田良成先生を中心に学術情報関係のプロジェクトがあり、上田修一先生、田村俊作先生が若手として活躍されており、他にも細野公男先生や高山正也先生もいらして、大変豪華な体制でした。授業で、公共図書館の定量データの分析があり、法学部時代にコンピュータの基礎はやっていましたが、自分でプログラムを組んで結果を出すのは初めてで、新しくて面白いことができそうだなと思いました。もう大学は卒業しているのだから大学院に来たらとおっしゃっていただき、卒業せずに大学院を受けたのです。

──学士入学したけれど1年で大学院に行かれた。大学院でのご研究は?

倉田 当時から学術情報で、政治学分野の研究者の成果発表を定量的に分析することをやりました。でも定量的といっても、当時、データ自体があるわけではないので、カードに貼り付けて数を数え、コンピュータは最後に使うだけという時代です。

修士論文は手書きで、博士課程になった時、初めて大学に巨大なワープロが入りましたが、1人1時間しか使えませんでした。プログラムは全部カードで書き、そのカードを大型コンピュータに読ませ、データ自体は磁気テープで回してという時代です。アウトプットは山のように紙が出てきます。

慶應のコンピュータは使い勝手がよくなくて、筑波大学のコンピュータを電話でつないで使わせてもらいました。でも、筑波の手前で電圧が変わるせいなのか、電話が切れて切れて。そのたびにまた最初からやり直しという感じでした(笑)。

図書館・情報学専攻への期待

──それは大変。その後、教員になられて長く過ごされたわけですが、印象に残っていることは何でしょうか。

倉田 図書館学科(当時)は文学部の中では新しく、戦後になってからできた学科です。アメリカの図書館協会からの支援を受けて慶應につくられた、ある意味では異分子なんですよね。

──1951年にできたジャパン・ライブラリー・スクール(JLS)ですね。

倉田 開設時は文学部の中にはあるけれど、かなり独立した日本図書館学校として機能していました。その後、文学部の中の一学科となるべく努力していたわけですが、私が教員になった頃も、まだその途上という感じがありました。

専攻の先生方はコンピュータにも事務的なことにも強い方が多く、文学部の重要な仕事を任されることが続きました。新人だった私は、学部の仕事は絶対に断ってはいけないと言われ、後輩たちにもそのように伝えてきました。

──私もいろいろなお話を断らないほうがいいと言われてきて、KeMCo(ミュージアム・コモンズ)のお仕事をお引き受けしたところもあります(笑)。

倉田 そういうことを経て学部の中で図書館・情報学専攻が認めていただけたのだと思います。私が学部長に選ばれたのも、そういった今までの積み重ねの中で、たまたまそういう巡り合わせになったのだと思います。学部長になった時、もうお辞めになった先生方が大変喜んでくださいました。

──図書館・情報学専攻については、大学をお離れになったところで、改めてどのようにご覧になっていますか。

倉田 私は、図書館・情報学専攻は図書館員を養成する役割だけではなく、大学生全員の情報リテラシーを涵養する役目があると思っています。もちろん、一専攻が慶應義塾の全学生を直接教育することはできないので、情報を扱うスキルや批判的思考の養成を推進していく体制やカリキュラムの検討に際して、図書館・情報学専攻がもう少し支援できれば望ましいのではないかと思います。

今、池谷さんもやっていらっしゃる大学院共通科目の「リサーチ・スキルズ」のようなものは、より力を入れてほしいと思います。実際に研究データをどう扱うかとか、その検索の仕方だとかを教えることを支援できればよいと思います。アメリカの大学図書館は当たり前のようにデータに関する教育支援をウェブ上でやっていますので。

──後進への期待は何かございますでしょうか。

倉田 図書館・情報学専攻の中で、学術情報流通の研究は絶えないようにしていただきたいというだけです。

──今日は有り難うございました。ますますのご活躍を期待しています。

(2024年8月9日、国立国会図書館内にて収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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