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和田 丈嗣:大ヒット『SPY×FAMILY』を制作

2024/02/15

大切にしたい世界観

── 技術的なことも聞きたいと思います。マンガの場合は見開きで1つの絵にして、大きなインパクトを与えたりします。
 アニメは画面の大きさが決まっていますが、どのように原作のマンガを消化していくのでしょうか?

和田 マンガはコマ割りが見開きであるとか、いろいろなテクニックがある。それに対してアニメは、画面の大きさは決まっていますが、「間(ま)」であったり、音であったり、音楽であったり、声優さんの芝居であったり、いろいろな手段があります。

マンガを読み解いて文字にするのが脚本家で、それをアニメーションに構成するのが絵コンテです。原作マンガの意図や原作から受けた衝撃をどう表現するかが、まさに僕らアニメチームのスキルが問われるところです。これをどの会社が作るか、どのクリエーターがやるかで変わる部分です。

── TVアニメ『SPY×FAMILY』は今のところ、遠藤達哉さんの原作をほぼ忠実になぞっていますよね。原作を超えることはあるのですか。

和田 作品の状況にもよりますが、TVアニメ『SPY×FAMILY』はそうはしないとプロデューサー陣は考えています。

『名探偵コナン』や『ドラえもん』等の世代を超えて愛されている作品がすでに存在する中なので、もう一段クオリティーを上げて、他とは違う世界観として構築して提供しないと差別化できない。

原作のマンガを薄めたようなものは、アニメファンではない今の10代の子たちからはスルーされてしまう。アニメのクオリティーは世界中の人たちにわかってしまうので、そういったテレビシリーズは世界でも見られてはいません。

一方、TVアニメ『SPY×FAMILY』や『鬼滅の刃』はクオリティーを意図的に上げ、原作者も含めて世界観を作り込んで、世界中の人たちから見られる作品にしています。

昔のようにアニメスタジオの立場が弱ければ、こういった議論にはならなかったかもしれませんが、今は日本国内だけではなく、世界も視野に入れたキャラクタービジネスにアニメビジネスが変わった。勝負の力点が変わったのですね。

CGを多用する映像

── なるほど。アニメで船の上で花火が上がるシーンは見事な美しさでしたが、あれはCGなのですよね。CGのほうがお金はかかるでしょう?

和田 そうですね。そういう部分にはお金と時間をかけています。かなりの部分をCGとの組み合わせで作っているので、ハリウッド映画に近くなってきていると感じています。

絵コンテをしっかり作り込んで、CGで何を作るかを最初に決め、その上で、じゃあ作画は何をするという順番で考えています。

── また、作中で2人が話している時に、手前側にフォーカスを合わせて、奥側はわざとぼかしておいて、まるで実写映画のカット割りのようにピントが動く。あれは演出ですよね。

和田 演出です。脚本の次の段階で、演出込みでコンテが描かれるので、全てそういう意図はコンテ上で出来上がっています。

── 音楽もシーズンワンでも1クールと2クールでエンディングもオープニングも変わりますよね。『ドラえもん』や『サザエさん』のようにいつも同じ歌ではなく、変えていくのは、各ミュージシャンとコラボして、皆が潤うようにという意図なのですか。

和田 そうです。おっしゃる通り、一時期、アニソンは「『ドラえもん』はこの歌」という手法でしたが、今は、短尺で音楽が付いているものが10代、20代を引きつけるのです。

例えば『推しの子』の中でYOASOBIさんが「アイドル」を歌ってYouTube で1億回以上再生となり、ビルボード・グローバル・チャートで1位となる。日本のアニメーションが世界中に広がっていく時、音楽と映像の組み合わせがすごく注目されます。

コラボレーションという形で例えば星野源さんのファンにも届くし、星野源さんが歌っているアニメだから何かメジャー作品っぽいという捉えられ方もします。市場に対してそのようにインパクトを与えて「バズ(Buzz)」を生みだしているという感覚です。

── オープニングとエンディングのタイトルもアニメは特別な制作者で作っている。シーズンツーのオープニングは特に心に残りました。

和田 このオープニングを作られた方は湯浅政明さんというアニメーション映画の監督で、アヌシー国際アニメーション映画祭などで賞を取られている方です。『SPY×FAMILY』の本質を一面で切り取った素晴らしいオープニングだと思いました。

── 劇場版はオリジナルの脚本を書いて、原作とは違う形で新しく全部作っているのですね。

和田 はい、当初思っていたベストな形にできたと思っています。最初からやるなら劇場版はオリジナル脚本で作ろうと思っていました。

やはり映画館で観られるものは違うと思っているので、ぜひ観ていただければと。

── 和田さんと最初に会ったのは2016年、『四月の永い夢』(中川龍太郎監督[塾員]、モスクワ国際映画祭批評家連盟賞受賞)の打ち上げでしたね。2人ともプロデューサーでしたが、和田さんはまた将来、実写に力を入れることはあるのでしょうか。

和田 これまでは実写に関してあくまで従来の実写映画の流儀にのっとって参加したという意識です。でも、これからはちゃんと自分なりの戦い方であらためて実写映画を再定義していこうと思っています。

── また一緒に映画を作りたいですね。これからの活躍に期待しています。

(2023年12月8日、吉祥寺WITSTUDIOにて収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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