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和田 丈嗣:大ヒット『SPY×FAMILY』を制作

2024/02/15

「最速」で劇場版へ

── 『少年ジャンプ+』というマンガ誌アプリで配信連載からスタートした『SPY×FAMILY』は、話題になってから紙ベースになり、コミックスは累計3千万部超出ています。そしてアニメ化されたわけですが、どの時点でオファーがきたのですか?

和田 当時、『少年ジャンプ+』からのアニメ化の話はオープンなコンペティション方式がとられていました。『SPY×FAMILY』もコンペ形式からのアニメ化という形で、こういう展開でやりたいですとお伝えして、それが採択されました。

── なるほど。WIT STUDIOとCloverWorksの2社が主たる制作会社として、テレビ版アニメを2022年4月から12月までの間に計25話やりました。どのように2社をすみ分けたのですか。

和田 今、アニメーションの消費のサイクルがどんどん短くなっていて、スピードとタイミングが求められています。その中で2022年にテレビシリーズが2クール、翌年に1クールと劇場版というのは最速だと思います。

スピードを意識する、ということは当初から企画のコンセプトにありました。『少年ジャンプ+』という配信の時代になり、移り変わりがどんどん早くなる中、通常は4、5年かけて劇場 にたどり着くところを「ヒットしたらスピードを意識しよう」というコンセプトでした。

制作会社の分け方はシンプルに最初のテレビシリーズは奇数話、偶数話で分け、2年目は、主にテレビシリーズはCloverWorks、劇場版はWIT STUDIOという形で整理しました。

── 劇場版が今回のプロジェクトの1つの目標ですよね。昔、セル原画の時代はまったく休みなしで作っていたそうですが、今のコンピュータで作るアニメは、30分の番組を作るのにどれぐらいの時間がかかるのですか。

和田 大まかな目安ですが、脚本完成が2カ月。絵コンテが大体2カ月で、これで4カ月。残りの作画が4~6カ月で、大体9カ月と思っていただければと思います。

でも、これはWIT STUDIOのペースで、日本に数百あるアニメーションスタジオの中には、他の考え方で作る会社ももちろんあります。何に時間と人を使うのかというポリシーと価値観にもよるわけです。

── WIT STUDIOはこういう作り方を選択されると。

和田 そうです。でも、アニメーション業界は全体として昔に比べると本当に変わってきています。今、残業時間は月45時間以内をもちろん守るのが基本です。今は成熟した企業になりつつある。祝日、休日もしっかり取る。IGポートという上場企業の主要子会社ですからね。

── さらに、WIT STUDIOではクリエーターを自前で養成していますね。養成した人が他の会社に行くかもしれないけど、アニメ業界をリードしていく会社にしたいのですね。

和田 そうですね。今はそれが本当に大きな流れになっていて、需要が多くて、供給側が間に合っていない中、結局は「人」が大事なのです。

ある一定規模の会社に関しては、育成が最優先だということに皆気付いています。

全世界の配信プラットフォームへ

── 今のテレビ東京の放送は土曜日23時からの枠ですが、リアルタイムの視聴率を見ると、大体個人視聴率が2~3%。世帯で見ると7~8%。これはすごい数字ですよね。

和田 よくぞここまでという感じです。

── 他の局ではなくて、どうしてテレ東だったのですか。

和田 テレ東さんは『NARUTO―ナルト―』をやられていて、深夜およびジャンプアニメに関する知見と関係性があり、早くからアニメーションに積極的に取り組んでこられたということがありました。

── 一方、アニメも配信のほうが見る人の数は圧倒的に多いですよね。僕はHuluで見たのですが、Huluは日テレなのに、全話が見られる。これはテレ東が偉いのですか、Huluが偉いのですか(笑)。

和田 アニメファンが偉いのではないですか(笑)。やはり見たいという要望が強いわけです。それに対していくつか戦略がありますが、『SPY×FAMILY』は全方位戦略をとっているので、ひとつの配信プラットフォームで独占するようなことはしていません。

さすがに地上波の他局で流れることはないですが、それ以外は全方位でやらせていただいています。

── 今、配信はいくつぐらい?

和田 もう数え切れないほどです。TVアニメ『SPY×FAMILY』を取り扱っているプラットフォームは、全世界のアニメーション配信プラットフォームのおそらく9割以上です。日本アニメの代表的なもの、『鬼滅の刃』などもそうなっています。

── しかし、WIT STUDIOが配信プラットフォーマーとする契約は1回見られるといくらもらえる、という契約ではないですよね。

和田 そうですね。配信プラットフォームによる実視聴数は開示されていないのが実情です。ここが、ハリウッドがストライキをした1つの理由で、プラットフォーマーが開示をしない。

そこは僕らも同じ感覚を持っています。今回、ハリウッドとプラットフォーマー側とで何かしらの妥結があったので、プラットフォーマー側も何かしらの回答を制作者側に提示することを期待しています。

ハリウッドのストが日本のアニメの制作の現場につながっている、という視点は皆に持ってほしいと思っています。映像文化を守るために戦っているわけで、僕らにもつながっています。

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