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茂木奈津子:トレーナーとして全米オープンテニス優勝に貢献

2019/04/15

トレーナーとしての道のり

──大坂選手に付く前はどのようにお仕事をされていたのですか。

茂木 花田学園在学中に、テニス協会のお手伝いを少し始め、それがきっかけで、卒業してからナショナルチームのトレーナーとしてフェドカップやユニバーシアードのチーム帯同や国内で開催されている大会の大会トレーナーといった活動をしていました。

ただ、トレーナーの仕事だけで生活するのは難しいので、花田学園に勤務しながら現場に出させていただいていました。2011年に花田学園を退職し、協会の仕事も離れた時期があるのですが、その後、当時ジュニアでトップだった選手を4年ほどサポートしたつながりで2016年に東京明日佳病院という、スポーツ整形に力を入れている病院に勤務し、一般の方からスポーツ選手まで幅広く接する機会に恵まれました。

その間も協会派遣で大会のサポートなどは続けていたのですが、2017年に、またナショナルチームの手伝いをしないか、とテニス協会から声が掛かりました。

その頃からトレーナーを協会から4大大会に派遣し、出場している日本人選手をサポートする体制が作られていたんです。

そしてウィンブルドンで大坂選手に出会い、当時の彼女のコーチが「英語が喋れるフィジオ(physio=理学療法士のこと)が来た!」と気に入ってくれたんです。

──英語ができるトレーナーは日本ではやはり珍しいんですよ。

茂木 例えばアメリカのATC(Certified Athletic Trainer)という資格は準医療資格ですが、日本では医療資格として認められていないので、日本で身体のケアをするためには日本の資格が必要です。アメリカで資格を取られて、帰国してから日本の資格を取り直していらっしゃる方もいますが、確かに英語ができる人は少ないですね。

英語は幼稚舎のときに3年間父の仕事の関係でイギリスに行って、そのときのものが辛うじて残っていたんです。テニスは世界中を回るので、周りは皆、外国人という感じで、英語だけではなくて、いろいろな言葉が常に飛び交っています。

──スポーツ界で働く慶應の卒業生はコミュニケーション能力を備えた人が多い。そういう人たちがもっと活躍してくれると、日本のスポーツ界も変わってくると思います。

アスリートを支える仕事

──慶應義塾が主催している慶應チャレンジャー(横浜慶應チャレンジャー国際テニストーナメント)という国際大会(口絵参照)があり、僕もオフィシャルドクターをやっています。3年前から女子の部門も始まり、茂木さんには大会トレーナーという形で関わってもらっています。

茂木 この大会は基本的に準備から大会運営までほぼ学生だけで行っているんですね。庭球部は帰国生の子が多いので英語も普通に飛び交っています。

──1つの大学でこういう国際大会が運営できるというのはすごいことだと思うんです。大会トレーナーというのは、出場選手は希望すれば誰でも診てもらえるのですね。

茂木 そうです。どの大会も必ず中立の立場の大会トレーナーがいます。試合中にケガをしても、選手のパーソナルトレーナーは絶対にコートに入れない。

ですから、このようなときにコートに出てくるトレーナーは、個人トレーナーではなく、大会運営側が用意している大会トレーナーです。

──スポーツというのは選手だけでは当然できない。選手を支える茂木さんのようなトレーナーや、ドクター、コーチ、あるいは大会を運営する側に立って選手を支える人もいないと、大会は絶対に成功しません。

スポーツの現場に行くと、選手以外で多くの慶應の卒業生がスポーツを支える側で活躍している、ということを僕もたくさん見てきました。

茂木 トレーナー仲間に卒業生はほとんどいませんが、協会で働いていらっしゃる方やスポンサーの方の中には塾員の方もよくいらっしゃいます。メディアにも卒業生は多かったですね。海外でそういう方たちに会うとちょっとほっとしますね。トレーナーももっと増えるといいなと思います。

──そうですね。ATは今、国家資格でもないので、そこは整備されてほしいですね。

茂木 ATは現在、日本スポーツ協会公認の資格で、取るのは大変です。ATの専門学校やATコースのある大学、医療系専門学校に通ったり競技団体に推薦してもらい、合宿形式の講習を受講して初めて試験が受けられます。

私が受験した頃は筆記試験、実技試験共に一発合格というのは1000人受けて1〜3人程度でした。今はだんだんと合格者数も増えてきましたが、国家資格になってほしいですね。

──ますますの活躍を期待しています。今日は有り難うございました。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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