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茂木奈津子:トレーナーとして全米オープンテニス優勝に貢献

2019/04/15

  • 茂木 奈津子(もぎ なつこ)

    アスレティック・トレーナー
    塾員(2001経)。幼稚舎より慶應義塾で学ぶ。大学卒業後、花田学園で鍼灸あん摩マッサージ指圧を学ぶ。2018年3月~11月、大坂なおみ選手に帯同。

  • インタビュアー石田 浩之(いしだ ひろゆき)

    慶應義塾大学スポーツ医学研究センター教授

全米オープン優勝の瞬間

──茂木さんは、昨年11月までテニスの大坂なおみ選手のアスレティック・トレーナー(AT)を務められてきました。その中で9月の全米オープン優勝という快挙があったわけですが、優勝した瞬間はどんな気持ちでしたか。

茂木 この試合は対戦相手のセリーナ・ウィリアムズ選手がたびたびペナルティを科せられて、ポイントを失いゲームを落としてしまう、という展開でした。

決勝戦は屋根が閉まっていて音がかなり響いていたので、正直私たちの席からは何が起きているのか、しばらくわからなかったのです。それもあって、ウィリアムズ選手が抗議している間、ファミリーボックスにいる私たちにはとても長い時間に感じました。

ゲームが再開した時はセカンドセットの3─5、ウィリアムズ選手のサーブで簡単にキープされました。相手はグランドスラム23回の優勝経験がある選手。どこからでも挽回される可能性があります。

しかし、その中でも大坂選手は自分を見失わずに最後まで集中して自分のプレーを貫いて勝ちました。勝った瞬間はもちろん嬉しかったのですが、同時に、「ああ、よかった」と安堵したというのが率直な気持ちです。

私は昨年3月から「チームオオサカ」に加わったのですが、チーム結成後初の大会でいきなり優勝してしまったのです。いいスタートを切ることができましたが、またすぐに優勝できるほど甘い世界ではありません。その後のヨーロッパシーズンはあまり良い成績が残せず、タイトルには程遠い日々が続きました。

特に全米オープン前のハードコートシーズンは得意のサーフェスなのに思うようにプレーができず、不安が残っていました。それが、全米で勝ち進むと同時に身体的にも精神的にもどんどん良くなっていって、決勝戦でも非常に特異な状況の中で勝ち切り、見事優勝しました。客観的に見れば短期間で偉業を成し遂げたわけですが、辛い時期も共にしてきただけに、その喜びは大きかったですね。

アスレティック・トレーナーという仕事

──アスレティック・トレーナーは選手の身体のケアをするのですね。具体的にはどんなことをやっているのですか。

茂木 「トレーナー」とは、ジムやフィットネスクラブでトレーニングを教えてくれる人、というのが一般の方のイメージだと思います。そういう方たちはストレングス・トレーナーとかトレーニングコーチと呼ばれています。

それに対し、私たちのようなATは身体のメンテナンスをするメディカル寄りのトレーナーになります。身体のケアといっても、現場でケアトレーナーという形で携わることもあれば、病院でドクターの指示のもと、ケガをした選手のリハビリをすることもあり、働き方は様々です。スポーツ現場で働きたい場合、日本ではATの資格のほかに鍼灸マッサージや柔道整復師という医療の資格を持って活動している人が多いですね。

競技によって求められることは様々ですが、テニスであれば連日試合ができるようにマッサージができ、痛みや筋肉の硬さを取るために鍼ができることが望まれます。いずれも国家資格を持っていないとできないので、私は鍼とお灸とあん摩マッサージ指圧師という資格を持って活動しています。

──なるほど。実際のスポーツの現場での活動を紹介してください。

茂木 試合の期間ですと、練習前のウォームアップ、練習中は水分補給のドリンクを用意したり、練習・試合後のクールダウンやストレッチ、夜は身体のメンテナンスとしてマッサージの他に栄養面の管理などもします。これが大まかな仕事の内容になります。

──大坂選手の場合、チーム内の役割分担はどうなっていたのですか。

茂木 サーシャ・バインコーチ、トレーニング担当のアブドゥル・シラー、そして身体のケアをする私の3人で大坂選手をサポートしていました。

アブドゥルと私の役割は重なることもありました。彼の肩書はストレングス&コンディショニングコーチでしたが、私もコンディショニングはするので、ウォームアップとクールダウンの指導は2人ともできるんです。そこは話し合い、ウォームアップは彼が、クールダウンのストレッチは私がするようにしていました。

でも身体の状態は日々変わるので、気付いたことがあれば、例えば「昨日のケアで肩が張っていたから肩のメニューを増やしてほしい」と、その都度情報を共有していました。

──茂木さんは英語が得意だから、上手くコミュニケーションができたと思います。語学も含めたコミュニケーション能力は、やはり重要ですね。

茂木 そうですね。このチームの場合、2人ともすごくオープンに話をしてくれたので、やりやすかったです。サーシャとの情報交換も密にしていましたし、特にアブドゥルとは事細かに話し合いをしながら、チームで大坂選手の状態をマネジメントしていました。たまに意見が食い違うこともあり、日本語だったらもっと上手く説明できるのに、と思うこともありましたが、そういうときでも彼らは根気強く話を理解しようとしてくれたので助けられましたね。

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