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【話題の人】
北野華子:スポーツの力で長期療養児を支援する

2018/10/15

  • 北野 華子(きたの はなこ)

    NPO法人 Being ALIVEJapan理事長
    塾員(平22環)。2013年渡米し、CLS及びCTRSの資格取得。2017年より現職。大学院政策・メディア研究科非常勤講師も務める。

  • インタビュアー秋山 美紀(あきやま みき)

    慶應義塾大学環境情報学部教授

病気の子どもをスポーツチームに

──長期療養中の子どもがスポーツチームに入団して活動する「TEAMMATES(チームメイツ)」事業が話題です。先日3例目として慶應義塾体育会野球部に岩田遼君が入団しました(口絵参照)。TEAMMATESというのはどういう活動なのでしょうか。

北野 TEAMMATES事業は長期的に治療を必要とするお子さんが、スポーツチームの一員として入団して、定期的に練習や試合に参加します。チームの中での居場所を得たり、目標となるロールモデルを見つけたり、お子さん自身が自信を取り戻し、長期入院を経験し、これからも療養を必要とする子どもの自立を支援していくマッチング事業です。

退院後も続く療養生活や身体的な制限がある中で、周囲の理解や協力を得ながらも、子どもたちができることを見つけていく経験を重ねて、学校生活や日常生活、今後の社会生活の幅を広げることを支援しています。

──病院では患者という立場で病気と向き合うわけですが、そこから一人の人間として社会とつながるところを支援していくわけですね。

北野 そうですね。そのスポーツチームのメンバーはもちろん、チームを応援してくださっている多くの方々にもその子の存在を知ってもらうことで、活動終了後も、支えてくれる人がホームタウンの中にいるという形にして、支援につなげる活動にしています。

──地域にその子の仲間をたくさんつくっていくのですね。最初の子が入団したのはバスケットボールのBリーグでしたか。

北野 はい。私たちを支援していただいている日本財団のパートナーであるBリーグが社会的責任活動の一環としてこの事業に取り組んでいただけることになり、プロスポーツの事業としてスタートしました。

プロスポーツチームが長期的に1つの社会貢献活動に取り組むことは海外でも珍しいことです。次が社会人のアメリカンフットボールクラブで、その後が慶應義塾体育会野球部です。現在のところ、全部で3人のお子さんが参加しています。

──そもそもこういう活動はアメリカで始まっていて、それを北野さんが日本に導入したということですか。

北野 そうです。私がアメリカの大学に留学していた際に「Team IMPACT」という非営利団体が大学スポーツと長期療養児のお子さんをマッチングする事業を行っていました。その団体だけでも累計で1500人近くのお子さんをマッチングし、46州、450以上の大学で実施しています。

その「Team IMPACT」の活動を日本でも取り込みたいと思ったのです。

「青春」を応援したい

──大学時代から北野さんを見ていますが、病気と向き合っている子どもたちを支えるという軸がぶれていませんね。

北野 実際に自分が子どもの頃に病気をして長期療養生活を送っていました。私も病気になる前はスポーツが好きで、病気が治ったら走れるようになることを目標にして治療を続けていたのですがなかなか治りませんでした。毎回、「治ったら走れるよ」と主治医や家族に言われても、いつになったら治るのだろうと思っていました。

大人になって病気が治ったとしても、子どものときにやりたかったスポーツなどの経験は戻ってこない。だから、たとえ病気でできないことがあっても、その子どもの「青春」というものが他の人と格差が出ないように、様々な目標や希望をもって子ども時代を過ごせるように応援をしたいと思い、この活動を始めたのです。

──SFCに入学したきっかけは?

北野 病気の子どもが長期的に療養しながら社会に関わる支援を考えたとき、医療や看護だけを勉強しても解決する問題ではないと思い、もう少し多角的に学べる場所はないかと探していたんです。そうしたら学童期に在籍していた院内学級の先生からSFCのことを教えてもらいました。

オープンキャンパスに行った際に、「SFCは百年先の未来をつくるのだ」という話を聞き、その言葉が印象に残りました。また、学生の研究発表で、自分が持っている社会課題を生き生きと伝え、一生懸命取り組んでいる姿を見て、私もそういう大学生になりたいと思ったんです。

──SFC時代を振り返ってみて、よかったことはどんなことですか。

北野 一番大きかったのは、いろいろな学生がいろいろな社会課題を持っていて、同じ秋山先生のヘルス・コミュニケーションを勉強している仲間でも1つのテーマを全然違う視点や切り口で語るところです。そういう友人と会話をしていると、自分が思ってもいなかったような捉え方が学べるところがよかったですね。

今、Bリーグや患者団体、コメディカルなど、いろいろな人と関わって「協働」が必要になるときに、SFCでいろいろなバックグラウンドがあり、多様な問題意識を持った仲間とグループワークができた経験は生きていると思います。

──SFCの後、京都大学の医学研究科社会健康医学専攻でさらに公衆衛生を深められました。

北野 SFCは医療に特化した学科ではなかったので、もう少し医療専門の方たちの中で、課題を考えてみたかったのです。医師も含めてバックグラウンドが医療という方が多い中で自分の課題に対し勉強を重ねました。

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