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北野華子:スポーツの力で長期療養児を支援する

2018/10/15

スポーツで得る自信

──スポーツと長期療養児がつながることで、その子にとってどんなメリットがあるのでしょうか。またチーム側にとってはどうなのでしょうか。

北野 お子さんに関しては、社会の中で応援し、支えてくれる人の存在が増えていくのが一番大きいかと思います。ご家族も色々な悩みを抱えていらっしゃるので、医療や福祉分野に関係なく、社会の中に理解してくれる人が増えることは何よりも不安が軽減し、療養生活の大きな支えになるかと思います。

──自信にもつながりますね。

北野 先日、Bリーグに参加した子がこの活動で他のお友達とつながっていきたいと慶應の野球部の入団式にも来てくれて、入団したお子さんを取材したり、いろいろな形で、自信や主体性、積極性がすごくついたと思います。

また治療経過もとてもよく、平均的な子より3カ月治療の速度が早いようです。因果関係はまだ分からないのですが、今後、そういったことも評価できるようになればと思っています。

──チーム側の効果はいかがですか?

北野 チームにとっては、そのお子さんを入れることで、この子のために何かをしようと考えて行動に移すので、選手やスタッフ一人ひとりの主体性や思いやり、問題意識を持ち、チームの団結力や雰囲気がよくなることが大きいかなと思います。

この事業は誰か一人が一生懸命頑張ったところで上手くいくわけではなく、チーム全体がそのことを知って仲間の存在を意識して一緒に動かないと、そのお子さんがチームの一員だと感じることはできないんですね。

今回の慶應野球部の入団式も、最初は全員参加する必要はないのではないかという声もあったのですが、学生のプロジェクトチームのメンバーに、入団式は入団するお子さんのためでもあり、その子を受け入れるチームのための入団式でもあるので、チームにとっていちばんいいことを考えてほしいと言ったら、全員で参加をしたいということで、総勢160名程の部員が入団式に出席してくれました。

未来をつくる一人のために

──東京オリンピック・パラリンピックが近づいてますが、開催後に何を残せるかも気になりますね。

北野 TOKYO2020に向けてスポーツが世間でも注目を集めるタイミングで、社会の中に病気や障害と向き合いながらも、多くの可能性を実現するポジティブなロールモデルをつくり発信し続けること、またそのロールモデルを支えるコミュニティを残し、継承できたらと考えています。そのためには、病気や障害のある個人の理解促進や社会参加の機会やサービス、マンパワーや寄付等の支援を継続的に増やしていきたいと思います。

──北野さんは他にもいろいろな活動をされています。これからやっていきたいことをお話しいただけますか。

北野 支援が必要な長期療養を必要とする子どもは全国で約25万人います。それは全体で見れば小さいポピュレーションで、注目もお金もまだまだ足りない。NPOを始めたときは、そこに対する認知や注目をもう少し上げて全体の底上げができればと思いました。支援団体は、どこもボランティアベースだったり資金不足だったりしています。でも、国の制度や病院ではどうしても行き届かない部分はNPOが色々な形で支援しています。

一NPO団体が発信し、そういったことを社会全体に知ってもらうのは難しいことですが、TOKYO2020もあり、スポーツにはアスリートやチームが持っている大きな発信力があるので、そこに乗せてこういう活動や支援の必要性を知ってもらうことで、子どもたちの支援に光が当たればよいなと思っています。

実際に今の子どもたちが未来をつくっていくので、健康な子たちだけではなく、病気の子たちもそういう未来をつくる一人なんだ、という意識を共有する社会にしたいと思っています。

──是非、そうしてあげてください。北野さんには、今、SFCでも非常勤講師をお引き受けいただいていますね。

北野 自分が持っている資格(CLS、CTRS)を持つ人はまだ日本にはほとんどいません。活動展開する上で人を教育してつくっていかなければと思っているので、最終的な目標は同じプロフェッショナルを現場に創出することです。また事業を評価する研究に取り組むことで現場の課題や活動意義の可視化もできればと思っています。

──これからも益々のご活躍を期待しています。今日は有り難うございました。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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