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北野華子:スポーツの力で長期療養児を支援する
2018/10/15
CLSになるために米国へ
──その後に渡米して留学されます。
北野 チャイルド・ライフ・スペシャリスト(CLS)という、病気のあるお子さんとご家族が様々な医療体験を受けるときの不安や心理的ストレスを軽減し、支援する専門職種の資格取得を目指し、アメリカのスプリングフィールドカレッジに行きました。
資格取得後、帰国して埼玉県立小児医療センターでCLSとして勤務しました。病院では小児がんのお子さんをはじめ、様々な病気のある子どもの年齢発達に合わせて検査や病気について説明したり、医師や看護師をはじめ、多職種と連携し、子どもが主体的に頑張れる環境や機会づくりを支援しました。
また留学中はNICU(新生児集中治療室)でCLSのインターンとして経験を積んだため、まだ日本では少ないNICUのCLSとして低体重児や医療ケアを必要とする赤ちゃんと、そのごきょうだいの支援にも携わりました。
今もチームに入団するお子さんが持っている不安や課題を、どうやって社会の人に分かりやすく伝えるかというところでCLSとして関わっています。
レクリエーションの意味
──北野さんは、CLSだけでなく米国認定セラピューティック・レクリエーション・スペシャリスト(CTRS)という資格も取られていますね。これはどんな資格なのでしょうか。
北野 日本では理学療法士や作業療法士という方々がいますね。リハビリは主に機能回復を支援しますが、レクリエーション・スペシャリストはレクリエーション活動を通じて、最終的にその人たちの自己実現を目指して身体的、精神的、社会的な自立を支援します。アメリカのいくつかの州では、理学療法士や作業療法士のように診療報酬を得られる専門資格となっています。
レクリエーションはスポーツに限らず自分の好きなこと、音楽だったり料理も、障害や病気により、普段楽しんでいることも制限されてしまいます。例えば、日常的にスポーツをしていた方が、病気によって全くできなくなってしまったのであれば、スポーツと等価の、違うレクリエーションを一緒に探してあげます。
レクリエーションの語源はre-createなので、新しい価値を創造するということです。病気になったことで今まで持っていた価値を失うこともあるけれど、逆に新しい価値をつくることもできます。例えば、もともとバスケットボールが好きだった人が脊髄損傷で車いす生活になっても、「車いすバスケ」を始めることで、個々の生活や日常において生きる意欲を取り戻したり、新しい価値をつくることができます。これがレクリエーションなのです。
さらにレクリエーション・スペシャリストは、その人が普段の生活の中でどう周囲に病気や障害をはじめ、必要な協力を伝えるか、またできないという障壁にぶつかった時、どうストレスや状況を対処するか、レクリエーション活動を通じて、その人にあった方法を一緒に考え、病気や障害と向き合う支援をします。
──失ったものを嘆くよりも、残された機能で新しい生きる楽しみや喜びを、またつくり出していくのがレクリエーションなのですね。
北野 レクリエーションは、人が社会とのつながりを得たり、体力をつけたり、気分転換をしたり、自分にとって意義ある時間を持ち、自己実現をするため日常生活のバランスをとる上で大事な活動です。だから、別に病気だからとか障害があるからではなく、皆にレクリエーションは必要なものですね。
──むしろ、今の「働き方改革」の文脈で、私たちこそがレクリエーションを考え直さないといけないかもしれないですね(笑)。アメリカ留学中に北野さんは本当に情熱をもって取り組めることに出合えたんですね。留学中、特に印象に残っていることはなんですか。
北野 一番の思い出はアトランタのパラリンピックのレガシーである団体Blaze Sports Americaに実習に行った際に出合った取り組みです。スポーツが競技として使われているのではなく、スポーツを使って社会課題を解決していく取り組みがとても印象的でした。
例えば、障害のあるお子さんたちへの理解と社会参加の促進を目的に、地域にいる健常児の子と一緒にスポーツをする機会を提供する中には、黒人だったり白人だったり、性同一性障害の方だったり、いろいろなバックグラウンドがある人たちもいる。皆で一緒にスポーツを取り組むんです。
そしてスポーツを楽しんだ仲間同士で活動を振り返る際、障害とか、黒人だからこういった差別があるとか、見た目は男性だけど気持ちは女性だといった課題が、大きなものから一人ひとりの小さなものまで、ポジティブに伝えられていくのです。この体験はとても印象に残るものでした。
──私が持っていたイメージをはるかに超える、いろいろな可能性をスポーツが持っていることに驚きます。
北野 ともにスポーツをすることで新しいことに挑戦する自信を持ったり、一緒にチームでやったからこそ、それまで自分が持っていた壁を壊して自分が思っていることを伝えようという突破口になる。それがすごいなとアメリカに行って一番感じました。
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