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【演説館】
舘野博喜 :禁煙外来ノスヽメ──スマホアプリで禁煙?!

2020/04/20

加熱式タバコや電子タバコなら良い?

冒頭にも述べたが、ここ数年各社からの加熱式タバコの販売競争が激化している。うたい文句は「有害物質の低減」で、毒性物質が9割カットされているようなグラフがパンフレットに載っている。「これなら健康にそこまで悪くなさそうだし、タバコ自体をやめなくてもすむかも?」、そう考えてくれることを製造元は期待している。

まだ市場に出て数年しか経っていないので、喫煙してから発病するまで20年も30年もかかる肺癌や肺気腫に、加熱式タバコがどれだけ影響するのか、誰も知らない。でも、医療者は口を揃えて、加熱式タバコもやめたほうがいいと言う。実際、アイコスのパンフレットには細かい字で「〝有害性成分の量を約90%カット〟の表現は、本製品の健康に及ぼす悪影響が他製品と比べて小さいことを意味するものではありません」とか、「たばこ関連の健康リスクを軽減させる一番の方法は、紙巻きたばこもアイコスも両方やめることです」などと記載されている。

現時点で分かっていることは、加熱式タバコからもニコチンは同じだけ摂取できること(これはある意味あたり前のことで、ニコチン依存を維持させて、タバコ製品を買い続けさせることが、新製品の目的なのだから)、紙巻きタバコより増加している物質も多数あること、紙巻きタバコから完全に加熱式タバコだけに変更できず、結局、紙巻きタバコも吸ってしまう人も多いこと、仮に有害成分を90%カットできたとしても、健康影響は50%も減らないこと、日本人を対象に行われた実験では、3カ月間完全に加熱式タバコに変更しても、体内から検出される毒性物質は減るものの、毒性物質に対する生体反応は良くならないこと、などである。

ニコチン入りの電子タバコは、日本では法律の規制があり販売されていないが、米国では重症のコロナウイルス肺炎にも匹敵するような肺障害が起きると分かり、問題になっている。

これらの新型タバコから検出されるアルデヒド類(有害物質の1つ)は、たしかに紙巻きタバコの約10分の1だが、もし禁煙して大気しか吸わなければ、体内に入るアルデヒド類は10万分の1に減る。そう、桁が違うのだ。せっかく身体のことを考えるのなら、加熱式タバコどまりなんて、もったいない、今こそ禁煙のチャンス到来!

禁煙外来ノスヽメ、そしてスマホ禁煙アプリとは

禁煙外来での禁煙成功率は高い。ただ、先述の8割超えのデーターは、3カ月に5回の受診を全うした人に限ったデーターである。途中で受診をやめてしまった人まで含めて、1年後まで追跡すると、禁煙率は3割程度に減ってしまう。

禁煙治療薬は、禁煙を始めるとすぐに出てくる「ニコチン切れの禁断症状」を抑えてくれる。これは加熱式タバコにも有効である。かくしてラクに禁煙できるわけであるが、外来におけるもう1つの重要な要素、医師や看護師からのカウンセリングを受けられるのは、2~4週間に1度だけである。受診しない間は、薬を使用しながらカウンセリングの内容を思い出しつつ、自分なりの対処を続けることになる。

また3カ月で禁煙治療は終了になるが、その後に再喫煙してしまう場合もある。

慶應義塾大学医学部呼吸器内科が監修を行い、禁煙外来の患者さんに使用してもらえる禁煙治療用のスマホアプリを、キュア・アップ(CureApp)社と共同開発した。日本の約30か所の禁煙外来を受診した600人近い喫煙者の方々に使用してもらう臨床試験を行ったところ、禁煙治療薬にも匹敵するような高い効果が得られた。

アプリには、自動応答機能があり、看護師のアイコンと毎日チャットをしてアドバイスをもらったり、数分で見られるアニメ動画が配信され、禁煙の戦略を体得したり、携帯型の呼気一酸化炭素測定器が付属していて自宅で毎日計測し、禁煙すると値がどんどん良くなることを実感してもらったり、禁煙日記を記録すると次の受診時に医師に見てもらえたりと、パワフルなツールが搭載されている。これを禁煙治療薬と一緒に使い、薬が終わった後も6カ月目まで使用してもらったところ、1年後も禁煙率が高かった。現在、健康保険で「アプリを処方する」ことができるように申請を行っており、今年中の実現を目指している。

禁煙外来の禁煙成功率は、今後ますます高くなるだろう。受診すれば、タバコを吸い続けるよりずっと安く、そしてラクに、ハイリスクな生活からおさらばできる。タバコのことを気にしないですむ生活の平穏さと快適さを、かつて喫煙者であった自戒も込めて、いま一度お伝えして本稿を終わりたい。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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