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【演説館】
舘野博喜 :禁煙外来ノスヽメ──スマホアプリで禁煙?!

2020/04/20

  • 舘野 博喜(たての ひろき)

    さいたま市立病院・慶應義塾大学病院禁煙外来担当医師・塾員

はじめに

今どき、タバコ喫煙が身体に悪くないと思っている人はいないだろう。ここ数年の間に、アイコス、グロー、プルーム・テックなどの加熱式タバコ市場も過熱しており、紙巻きタバコから変更する人も増えているが、一番の理由はなんと言っても「健康のことを考えて」ということである。

タバコをやめられない人のために、2006年から本邦でも禁煙治療を健康保険で受けられるようになった。3割程度の自己負担金で薬を使った禁煙治療を受けることができ、その成功率も高い。いわゆる禁煙外来での治療は、3カ月間に5回受診するプログラムになっていて、きちんと5回受診した人では、3カ月後の禁煙成功率は実に8割を超える。禁煙外来でする禁煙は、現時点で最も科学的裏付けのある、成功しやすい方法と考えられている。

やめたいけど、やめたくない

「タバコは身体によくなさそうだし、いつかはやめなくちゃな」、そう考えている人は喫煙者の7割に上ると言われている。タバコは嗜好品として販売されているが、お茶やアロマなど他の嗜好品と違って、タバコだけはどうしてそんなにもやめにくく、また、禁煙外来などを国がわざわざ税金をかけて整備する必要があるのだろうか?

禁煙治療を保険で行う場合の治療病名は、「ニコチン依存症」という慢性疾患である。よくニコチン中毒などとも言われるが、ニコチンには「依存性(=中毒性)」がある、ここにすべてのカギが潜んでいる。

ニコチンとタール。タバコの箱に表示されていてよく耳にする言葉ではあるが、実はニコチンは自然界にほとんど存在しない非常に珍しい物質である。ナス科の植物であるタバコだけに作ることができ、害虫から身を守るための毒成分と考えられている。南米原産のこの植物を喫煙する風習を、コロンブスが米大陸から欧州に持ち帰り、その後北米で自動紙巻き器が作られて大量生産が可能となり、世界中にニコチン依存症者が広がった。仮に、路傍の雑草を乾燥させて細切れにし、紙に巻いて燃やして吸ってみたところで、誰も吸い続けることはない。ニコチンが入っていればこそ、人は吸い続けるのだ。

タバコの依存性は麻薬より強いとされている。タバコの煙に含まれるニコチンは、一服すると数秒で脳に届き、依存症者にホッとしたような感覚を与える。「吸いたいから吸っている」「自分の生活にとって、なくてはならないもの」「できればやめたくない」、そう感じさせる商品ではあるが、なくならないように買い置きしたり、もしなくなってしまうと台風の中でも買いに行ってしまう、そんな商品でもある。これは本当に、自分の自由意志で吸っている嗜好品なのだろうか? むしろ「吸わされている」というほうが近くはないだろうか?

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