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【演説館】
舘野博喜 :禁煙外来ノスヽメ──スマホアプリで禁煙?!

2020/04/20

禁煙は思い立ったが吉日

かくしてニコチン商売はもうかり、1度吸い始めてくれれば、何十年にもわたって消費し続けてくれる割の良い商品ということになる。また、ここに6割の税金をかけている国もタバコ収入に依存しており、そう簡単に販売を禁止できない商品になっている。

しかし、タバコの健康被害は深刻だ。毎日きちんと(?)喫煙すると、寿命が10年短くなり、死亡率が2倍になる。20歳から吸い始めて、本来85歳まで生きられた人が75歳で亡くなるとしたら、毎年1年あたり2カ月ずつ寿命を捨てている計算になる。タバコを吸っていなければ罹らずにすんだ病気で死亡率が2倍になるということは、ロシアンルーレットで2発に1発の弾を込めて引き金を引くような、リスクの高い賭けをしていることと同じだ。

そんなタバコも、やめればすぐに良い効果が出ることが分かっている。心筋梗塞のリスクは24時間以内に減るし、肺気腫も進まなくなる。寿命も延びるし、認知症にもなりにくくなる。いずれも、早くやめれば早くやめるほど御利益が大きいが、何歳でやめても効果はあり、禁煙に遅すぎるということはない。

健康面だけではない。タバコを吸わないですむ生活の、なんと平穏で快適なことか! 出がけにタバコグッズ一式を忘れずに携帯する必要はないし、出先で喫煙できる場所をあらかじめ探しておく必要もない。火の元の心配はなくなるし、口臭を気にしてフリスクを口に含む必要もない。そう、禁煙すると、自分にとって良いことずくめなのだ、恐れることはない。

人の目も気にしなくてすむ

最近では、喫煙できる場所がずっと減ってしまった。日本の喫煙人口も2割を切り、人前で喫煙することにはかなり肩身の狭い思いが伴う。今まで喫煙できた店も、この4月からは法改正や条例により吸えなくなったりして、禁煙の店がますます増えるだろう。これは「受動喫煙」という、他者への健康被害を抑制するためだ。受動喫煙の被害も深刻で、日本だけでも毎年受動喫煙によって1万5千人が亡くなっていると推計されている。

最近では、サードハンドスモーク(3次喫煙)という言葉も出てきた。目の前で吸われなくても、部屋などに残留したタバコ煙物質から受ける健康影響のことである。タバコから放出されたニコチンは、部屋の家具やカーペットなどにベタベタとくっつき残留する。大気中の物質と反応すると発癌物質も生じる。とくに乳幼児にとっては、ハイハイして触った手を口に持っていくことで、これらの有害物質を大人より高濃度に摂取している。

また喫煙した後の呼気からは、45分間も有害物質が出続ける。深呼吸を数回したくらいではとうてい消えないことは、喫煙所から戻ってきた同僚が隣の席についたら臭いですぐに分かることからも明白であろう。そのため、喫煙後45分間は敷地内やエレベーターへの立ち入りを禁止するところも出てきている。

そんな肩身の狭い生活が、今後ますます厳しくなることはあっても、緩和される見通しは望み薄である。そう、禁煙すれば、こんなKYな問題も一気に解決する。

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