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【演説館】
星野裕志 :社会的課題をビジネスで解決する

2020/02/21

ホームレスに自立手段を

2003年4月、九州で初めてのビジネススクールの立ち上げのために、九州大学に移った。地元の福岡は、大阪、東京、横浜、川崎を含む5都市の中で唯一、労働者の集まるドヤ街がない。それなのに、ホームレス人口が大阪に次ぐ969人を数えた時期があった。市民の誰もが認める快適さ、住みやすさは、私たちのためだけで良いのか。このことに大きな問題意識を持った、お互いに全く面識のない10人ほどが偶然・個別にアプローチしたのは、雑誌の販売を通じてホームレスの自立を支援する英国発の雑誌『Big Issue』を日本で発行する大阪の会社であった。

当時は1冊300円の雑誌を販売すると、そのうちの160円が本人の収入になり、その売り上げから次の雑誌を仕入れ、自分のお金で食事をして、ネットカフェなどに宿泊できた。そしてアパートなどに入居できれば、自分の住所を持つことになり、就職にもがり得る。そのような形での自立支援を企図したビジネスモデルである。

出張や旅行先の首都圏・関西で、ホームレスの販売員が雑誌を持って街頭に立つ姿を目にし、これを福岡に導入したいと考えたメンバーで「ビッグイシュー福岡サポーターズ」を立ち上げ、この活動を誘致した。そして2007年5月7日、繁華街の天神で『ビッグイシュー日本版』の販売を始めた。

一緒に街頭に立っていて、経済的な自立もさることながら、販売員の意識の変化に驚かされた。身なりを清潔にし、声を出して販売努力をする彼らの姿は、かつて背を向けた社会に復帰するような感があった。生活保護が支給されやすくなった現在、この活動は残念ながら休止中だが、一時は最大11名が博多駅と天神周辺で販売し、実際に就労にがっていった。

福祉やチャリティによる救済ではなく、自ら自立に向けて努力すること、またビジネスを通じて社会的な課題を解消することに、大きな力を感じた。

大学でソーシャル・ビジネスを育てる

現在、私は九州大学ユヌス&椎木ソーシャル・ビジネス研究センター長を務めており、バングラディシュのグラミン財団とも連携しつつ、日本国内でのソーシャル・ビジネスの研究・教育、啓発、プロモーション活動を行っている。その活動の一つとして、2012年から毎年ソーシャル・ビジネス・デザインコンテストを主催している。これは革新的なソーシャル・ビジネス創出を目的とするビジネスプラン・コンテストであり、全国から応募された多くの社会人・学生のチームを対象とし、ワークショップとメンターによる専門的なアドバイスを経て、東京で開催されるグランドチャンピオン大会に向けて優れたプランが練られていく。このコンテストから誕生したソーシャル・ビジネスの企業も40を超えた。

また研究として、ソーシャル・ビジネスのモデルを探すべく、アジアやアフリカで多国籍企業のヒアリングを行っている。バングラディシュでは、もやしの原料の緑豆を生産する日本企業のユーグレナとグラミンの合弁企業など、大変興味深いモデルが見られる。

ソーシャル・ビジネスは、社会的な課題の解決に貢献することと事業性とのどちらをも充足することが求められるため、ハードルは高く見える。一方で、未だに解決されていない課題や痛みが多く存在することを思えば、その対象分野は広く、様々な規模での事業の可能性が考えられる。地域の課題の解決から、企業の新規事業への進出、日本企業の開発途上国市場への参入まで、ソーシャル・ビジネスの考え方は、新たな視点でのビジネスのアプローチを示唆していると感じる。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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