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【演説館】
小島泰威:日本の鉄道、世界へ跳ぶ──現地に入り、文化に根ざす

2019/10/17

  • 小島 泰威(こじま やすたけ)

    日本コンサルタンツ株式会社企画営業本部副部長、前東日本旅客鉄道株式会社国際事業本部英国フランチャイズ課長・1996総

日本の鉄道、英国の地へ

2017年12月10日。英国ウェストミッドランド鉄道の運営権を獲得し、東日本旅客鉄道と三井物産がオランダ系現地鉄道事業者のアベリオと共同して運行を開始した。これは、日本の鉄道事業者が海外の鉄道運行に携わる最初の事例である。

ウェストミッドランド鉄道は英国の首都ロンドンから北西に伸び、第2の都市バーミンガムを通り、アイルランド海に面する港湾都市リバプールに通じる、1994年以降に民営化された旧英国鉄の路線を管轄とする。この路線は1830年に世界初の本格的な鉄道であるリバプール・マンチェスター鉄道と、1838年に開業し、ロンドンに乗り入れた初の鉄道であるロンドン・バーミンガム鉄道に端を発する。鉄道発祥の国の、由緒ある路線。後進の日本の鉄道事業者の一員として、歴史と伝統のある鉄道産業で、師と仰いだ国の鉄道の運行に責任を持つことに身震いをせずにはいられなかった。

英国で待ち受けていたもの

進化論ではないが、起源は同じであっても国や地域の事情に応じて鉄道の発展の方向性は異なる。日本に鉄道が生まれてから間もなく150年を数えようとする中、鉄道の母国に舞い戻った日本の鉄道技術者を英国で待ち受けていたのは鉄道文化の違いであった。

車両の仕様も違えば、定時性を測る指標も違い、信号システムにおける安全の考え方も異なる。信号機が停止現示の場合、日本ではその直下までに列車が絶対停止する仕組みが導入されて久しい。だが、英国では信号はあくまでその先の列車の存在や信号機の現示の予告であり、停止に関しては運転士の注意力にも重きを置き、必ずしも信号機直下までに停止することを重視しない。このため、停止位置を超えることは事故だが、システム上は許される。

サービス面では、混雑対策の考え方も然り。日本の通勤車両は、混雑を軽減するために、向かい合う座席の多いクロスシート車両からレールの向きと平行する座席ばかりのロングシート車両に置き換えたり、車両の幅を限界まで拡幅したりして室内空間を確保する。対する英国では、座席定員を重視し、座席を増やすために前の座席とのシートピッチを詰めたり、シートそのものを薄くしたりして多くの座席を設置することを是とする。

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