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【演説館】
鵜野レイナ:クマと人間は共存できるのか──クマの人的被害を減らすための検証と知識を広めよう

2019/05/20

ケース2:親子のクマ

一般的に親子クマは危険と言われており、我が子を守るために母グマが人間を襲うケースがあります。

例えば、クマは甘い物が好きで果物を盗み食いするため、捕獲用のワナの多くは果樹園に仕掛けられます。その際、非常に危険なのは、子グマだけがワナにかかった状態です。ワナの周辺には自由に動ける母グマがおり、我が子を救おうとしています。そこへ見回りの人間が来ると、攻撃の意図を持った母グマに襲われ、大きな事故になります。こうした事故を避けるには、子グマの体重ではワナの扉が閉まらないようにするなどの工夫が有効です。

ケース3:クマは暗い所に逃げ込む

クマが納屋、土産物屋、学校の校舎など、建物の中に逃げ込み、被害が拡大することがあります。人間が作った建物に自ら突っ込む行動は一見不思議ですが、クマにとっては岩穴のように中が暗いので、身を隠せると判断するのです。とっさの状況では難しいですが、クマの逃げ道を作ってあげることも、被害を減らす方法になります。

警察と協力し、事故の情報を蓄積する

こうした事例の情報収集と分析には、警察との協力も欠かせません。例えば、クマによる人的事故の被害者は大きなケガを被ることも多く、忌々しい記憶を早く消したいと思うのは当然です。そのため、警察の現場検証や聞き取り調査に続いて、私などクマ研究者が事故再発防止のためにお話を伺おうとしても「もう警察に話したので」と口を閉ざすケースが多くあります。

個人情報の保護に十分配慮する必要はありますが、警察と情報を共有し、さらに現場にも同行できれば、事故の状況を詳しく分析し、被害の程度(爪によるものか、咬み跡なのか、どこが最初の傷なのかなど)を明らかにして、再発防止に役立てることができます。

また、クマの目線で考えることも大切です。警察のプロファイリングさながら、出没したクマ、事故を起こしたクマの性別や年齢を推測します。足跡や草の分け目などに注目すれば、どこから来て、どこへ移動したかなどの行動が見えてきます。

これらは動物行動の専門家以外にも猟師(マタギ)の先輩たちから詳しく教わりました。明らかに、年齢や性別によって生き物は行動が異なります。なぜそのクマが被害を出したのか、なぜその土地を通過するのか。警察と協力して事故を細かく分析できれば、クマの事故はもっと減らせるでしょう。

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