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あたらしいミュージアムをつくる: 慶應義塾ミュージアム・コモンズ
第5回 KeMCoのデジタルアーカイブとその展開

2021/02/19

  • 重野 寛(しげの ひろし)

    慶應義塾ミュージアム・コモンズ副機構長、理工学部教授

慶應義塾ミュージアム・コモンズ(KeMCo)は、義塾の保有する文化財を活用した新しい研究教育を進め、広く世界に発信するミュージアムである。このために、KeMCoが収蔵する文化財と義塾の文化財の情報を発信し、様々な活動を結びつけるデジタル空間を作ろうとしている。第5回では、KeMCoの活動の基礎となるデータ基盤、いわゆるデジタルアーカイブとその展開について概観する。

資産としての文化財データ

大学のような研究・教育機関においては、所蔵する文化財のデジタルデータが資産になってきている。多くの博物館などでは既に文化財の、デジタル画像や3次元形状データとしての記録・保管が進められている。このような文化財のデータはいわば「デジタル形式による複製」であり、組織的に整備されることで、将来の研究や教育、新しいサービスでの活用に大きな可能性を秘めている。文化財に限ったことではないが、データそのものが新たな価値の創造の基盤になると目されている。

文化財のデータには大きくオブジェクトのデータとそれを説明するメタデータがある。ここではこれらをまとめて文化財データと呼ぶ。オブジェクトのデータは対象の文化財の写真や3次元形状モデルなどである。メタデータは文化財そのものの説明、検索のための情報、利用条件など、データの使用やデジタル処理に必要な情報である。データといえば高精細な画像や精緻な3次元表示のためのオブジェクトのデータに目が行きがちではあるが、これからの文化財とデータの利活用のためにはメタデータが極めて重要であり、それらの両方を整備する必要がある。

義塾の文化財のデータ

慶應義塾は多様で幅広い文化財を所蔵しているが、それらは義塾の各所、諸部門に分散して管理されている。しかし、これらの文化財すべての情報を統合するデータベースや、文化財にまつわる研究教育や活動を組織的に記録、保管するアーカイブの整備は十分ではない。したがって、これまで個々の文化財のデータがどこにあるのか、それを利用できるのか、どのような利用事例があるのかなどを手軽に知ることは難しかった。デジタル情報の観点からは、義塾の文化財やそのコレクションに関する見取り図がなく、文化財データの整備が、その利活用、特に新しい研究教育、実践、そして情報発信に効果的につながっていなかったと言えるだろう。

デジタルサービスにおけるKeMCoの役割

大学ミュージアムにおける文化財データの利活用のためには幅広い取り組みが必要である。データの拡充、情報システムやツールなどの技術的な仕組みの整備などである。加えて、新しい取り組みついての制度やルールの整備、体制や業務フローにおける対応、先駆的な実践とその共有、コンセンサスの醸成なども重要である。

KeMCoには様々な側面があるが、デジタルサービスの観点からは大きく4つの役割がある。

1つ目はセンチュリー文化財団から寄贈される文化財の情報を提供するデジタルアーカイブとしての役割である。KeMCo自身が収蔵する書跡、絵画、金工、彫刻、漆工など2,300件あまりの文化財について、文化財データの整備や公開のための準備を進めている。

2つ目は文化財データとその利活用のためのデータ基盤を構築することである。KeMCoをデジアナ融合型のミュージアムとして機能させるための情報システムやサービスの構築を進めている。

3つ目は義塾の文化財データに統一的にアクセスできる分散型ミュージアムのハブとしての役割である。文化財を所管する塾内諸部門と協力し、各々が保持する文化財データを連携させ、学内外に公開できる文化財情報ハブを構築する。

4つ目は義塾の文化財データやデータ基盤を活用した新しい研究・教育、その他の活動の場を提供することである。例えば、オブジェクト・ベースト・ラーニングのような新しい教育プログラム、アーティストと学生の協働プロジェクト、KeMCo StudI/O(ケムコ・スタジオ)におけるファブリケーションを活用した、学習や専門領域の垣根を超えた研究活動などがある。これらの取り組みについては、連載第2回第3回を参照いただきたい。

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