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あたらしいミュージアムをつくる: 慶應義塾ミュージアム・コモンズ
第3回 デジタルとアナログの融合を目指して── KeMCo StudI/O の挑戦

2020/12/23

  • 宮北 剛己(みやきた ごうき)

    慶應義塾ミュージアム・コモンズ特任助教

連載第3回では、慶應義塾ミュージアム・コモンズ(以下、KeMCo)が掲げるビジョンの1つ「デジタルとアナログの融合」の最前線となる場「KeMCo StudI/O(ケムコ・スタジオ、旧称I/O ルーム)」について詳述する。

Input × Output

これまでの本連載でも触れてきたように、東別館8階に位置するケムコ・スタジオは、様々なかたちの「ファブリケーション=ものづくり」を実践していくクリエイション・スタジオとなる。StudI/O のⅠ は「Input」、O は「Output」を表し、慶應義塾が160年を超える歴史のなかで集積してきた有形・無形の文化財を、デジタル/ アナログにInput/Output していく場となる。スタジオには、電子工作機器や3Dスキャナー・プリンター、レーザーカッターをはじめとするデジタル/アナログの多様な工作機能が備わり、ミュージアム来館者をはじめ、塾生や教職員、研究者等が「ミュージアムにおける展示・収蔵の実践と間近に接しながら、デジタルとアナログの関係性を体験を通じて学ぶとともに、メディア横断的な創造を展開」していくことができる。

こうした工作施設は、これまで、他キャンパスでも様々に展開されてきた。例えば、湘南藤沢キャンパスは「Fab Campus(ファブ キャンパス)」と銘打ち、キャンパス全体でのものづくりを後押ししている。また、日吉キャンパスの協生館は「EDGE LAB CREATIVE LOUNGE(エッジ ラボ クリエイティブ ラウンジ)」と呼ばれるファブリケーション施設を擁しており、デザイン領域における国際的な共同研究も推進している。

これらの施設を参考にしつつ、三田キャンパス初のクリエイション・スタジオとして誕生するケムコ・スタジオは、ミュージアムの一部として、展示室・収蔵庫と同じ建築を共有することを活かし、「Output」だけでなく「Input」にも重きを置くところに独自性をもつ。「Input」とは、文字通り「入力すること」を意味し、慶應義塾が蓄積、収集、あるいは保存してきた文化財(情報)のデジタルデータ化、そして、インターネットを含めたデジタル空間への投入を推進していく。対して、「Output(出力)」では、投入されたデータの公開・共有を行い、その利活用を塾内外で推し進める予定である。そうした「Input」活動と「Output」活動とを両軸で考えることで、ケムコ・スタジオは、文化を継承ならびに発展させていく役割も担うこととなる。三田という歴史・文化の集積地において、先進的なデジタル技術を用いることに加えて、専門性や前提知識が様々に異なる人々(来館者、塾生、教職員や研究者等)の多元的な観点が反映されることで、「Input」された文化財(情報)が2次利用、2次創作をはじめとする「Output」につながり、Input/Output が相互に循環し、歴史・文化の着実な継承と創造的な発展が可能になるのである。

ケムコ・スタジオ内部の様子(プレビュー・イベント時)

ファブリケーション×ダイバーシティ

前述したように、ケムコ・スタジオには、Input/Output に対応した各種ファブリケーション機器が設置される。機器詳細は割愛するが、スタジオ内には撮影・工作機器が備わり、古典籍をはじめとする書物や美術工芸品、大型の絵図等の高解像度静止画撮影に対応する。また、立体物については、ポータブルの高精度3Dスキャナを通じて、色情報も含めた3Dデータの取得が可能となる。他に、素材や抽出方式の異なる複数種類の3Dプリンターが常置される。

ファブリケーションと一口で言っても、その目的は(a)経年劣化や損傷が不可避な作品の記録・保存のためであったり、(b)物理的に鑑賞や閲覧が困難な作品のアクセスポイントを増やすためであったり、あるいは、(c)肉眼では見ることの難しい作品の細部まで視覚化するためであったりと多岐にわたるが、ケムコ・スタジオには、初学者から専門家まで、ダイバーシティ(多様性)に富んだ利用者層が想定されるため、スピーディなプロトタイプ制作から本格的なコンテンツ制作に至るまで、幅広い要求に応える設計となっている。

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