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あたらしいミュージアムをつくる: 慶應義塾ミュージアム・コモンズ
第3回 デジタルとアナログの融合を目指して── KeMCo StudI/O の挑戦

2020/12/23

分野横断×学び

連載第2回で詳述されているように、ケムコ・スタジオの中心部には、塾員でもある美術家の大山エンリコイサム氏による作品が設置され、利用者のクリエイティビティを五感で刺激・触発する。この唯一無二の空間で、KeMCoがファブリケーション活動と並行して推進したいのが、学習分野や専門領域の垣根を超えた教育・研究活動である。

KeMCoは構想当初から、文学や美術、情報工学など、各分野を専門とする所員で構成されてきた。そして現在、ケムコ・スタジオの運用を担っているのが「KeMCoデジタル・アナログ融合プロジェクトメンバー(重野寛理工学部教授、本間友専任講師、筆者の3名)」となるが、このメンバー自体、専門分野がそれぞれ情報工学、美学美術史、メディアデザインと異なっている。しかし、だからこそ、それぞれが他分野・他領域の専門家と協力し、複合的な視野をもつことで、あたらしい教育・研究成果を生み出していけるものと考えている。

具体的な教育プログラムとしては、慶應義塾の文化財を活用し、幼稚舎を含めた一貫校の生徒、各学部/研究科の塾生等が自ら手を動かして思考・探究していくハンズオンレクチャーや、スキル習得・体験型のワークショップ、アイデアソンやハッカソン等を計画しており、参加者間の様々な視点や文脈が行き交うことで、共に学び・創る場となることを目指している。また、こうした活動を塾内外に拡げ、他キャンパスのラボ等と協働することで、ラボ同士をネットワーク化し、分野のみならず組織も横断した「交流」を生み出していくことも計画している。

ケムコ・スタジオ内部の様子(プレビュー・イベント時)

対面×遠隔

読者の皆様も実感している通り、新型コロナウイルス感染症の影響で、私たちを取り巻く社会環境はここ数カ月で劇的に変化した。大学に来ることが叶わない塾生もまだ多くいるなかで、「作品を起点とした学びや交流」をどのように創出していけるのか。熟慮の末、KeMCoでは、ケムコ・スタジオを「対面」と「遠隔」両方に適応可能なハイブリッド型で展開することにした。

対面で得られる知識や情報のすべてを遠隔環境から得ることはできなくとも、自身の置かれた環境によって「学びや交流」が制限されることがあってはならない。そうした考えの下、スタジオには常設の遠隔会議システム(Zoom Rooms)を設置し、スタジオ内で実施するワークショップやレクチャーすべてへの同時双方向参加を可能にした。また、BYOD(Bring Your Own Device)にも対応することで、利用者・利用環境の多様性に配慮し、実用性と可用性を高める工夫をしている。

ケムコ・スタジオ内部の様子(遠隔会議システム:デモ)

文化財を未来につなぐ

ここまで足早にケムコ・スタジオの意義・価値について述べてきたが、こうした施設はただ作っただけでは意味を成さず、実際に活用されないと無用の長物となる。そこで、状況をみながら、まずは来年初頭からオンラインワークショップを開催し、塾生や教職員に活用してもらえる場にしていきたい。また、内部の教育・研究利用に留まらず、グランドオープン後には、地域や慶應義塾のコミュニティと協働しながら、専門的な知識や研究経験のない一般の方にも開いていく予定である。

また、本稿では詳しく触れなかったが、デジタル・アナログ融合プロジェクトでは、他にデジタル・アーカイブの制作等も進めており(本連載後半で、重野寛教授が紹介予定)今日の文化財を未来につなげる役割も果たすのと併せて、より多くの人々に、慶應義塾が所有する文化財に興味関心を持っていただけるよう、日夜研究に勤しんでいる。

これからの取り組みにも、ぜひ期待いただき、また、ケムコ・スタジオでの活動に関心のある方は、まずは気軽にKeMCoまで問い合わせていただきたい。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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