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あたらしいミュージアムをつくる: 慶應義塾ミュージアム・コモンズ
第2回 立ち上がるプロジェクト──KeMCoプレビューに向けて

2020/11/24

  • 長谷川 紫穂(はせがわ しほ)

    慶應義塾ミュージアム・コモンズ所員

前号では、慶應義塾ミュージアム・コモンズ(以下、KeMCo)の活動とその射程について、その施設のあり方を交えながら、ひろく概観する形でご紹介した。連載の第2回では、塾内外と協働・連携しながら進めてきた活動のうち、KeMCoプレビュー(10月26~29日)にて公開されるいくつかのプロジェクトをご紹介する。

アーティストとの協働

KeMCoは、文化財を起点に、あるいはアートをキーワードに、そこに集う人々の交流を生み出す場として機能することを目指す。また現代の制作と過去の文化財を架橋し、特に学生(一貫教育校の生徒ならびに大学の学生)に向けて作品をより身近に感じてもらうこともミッションの1つに掲げている。そうした観点から、現在、2つのコミッションワーク・プロジェクト(CommissionedWork by KeMCo 2020)を進めており、KeMCoプレビューに合わせてそれらの作品がお披露目される。

大山エンリコイサム氏による《FFIGURATI #314》

その1つは、東別館8階KeMCo StudI/O(ケムコ・スタジオ)に制作された、大山エンリコイサム氏による作品、《FFIGURATI #314》である。

《FFIGURATI #314》は、ケムコ・スタジオ内の壁面(円柱)およびカーテンを支持体とし、作家独自のモチーフであるクイックターン・ストラクチャー(Quick Turn Structure :以下、QTS[グラフィティから描線のみを抽出した3次元的モチーフ])がさまざまな表情をみせる作品である。部屋の用途上、スタジオを間仕切りするカーテンが設置されており、そこにプリントされたQTSのフォルムがその開閉により変化し、部屋の一断面を覆い尽くしたり、畳まれ圧縮されることで一所(ひとところ)にボリュームをもったりと、バリエーションをもって見る者の前に立ち現れてくる。

大山氏にとって今回はじめてアプローチするメディウム(媒体)であったというポリエステルオーガンジー(透け感のある布素材)は、スタジオの設計チームとのディスカッションのなかでその見せ方が試行錯誤された。結果として、可変的なスタジオのあり方をユニークに表現すると同時に、その光沢と肌理(きめ)によって生み出されるモアレのような視覚効果がまるで映像のような仕上りをみせ、壁面に描かれたエアロゾル塗料の質感や作家による手仕事の痕跡と相まって、利用者がデジタルとアナログを行き来するケムコ・スタジオの場所性と密接に結びついたアートワークを生み出した。

この新しいスタジオは、これまでの三田キャンパスにおいては色合いが薄かった「制作」の場である。今後、学生を中心に、様々な発想が具現化していくこの場所に、メディアを横断した手仕事としての大山氏の作品が在ることは「ものをうみだすこと」の息づかいを身近に感じさせ、刺激を与えていくにちがいない。

またKeMCoのコレクション母体となるセンチュリー文化財団からの寄贈品には文字文化に関する作品や資料が数多く含まれており、その文脈からも、大山氏が取り組むライティング・カルチャー(Writing Culture)との接続をみることができ、古今の文字文化へのアプローチを眺めてみる地平が開けたといえよう。

KeMCo StudI/O での作品制作の様子
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