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慶應義塾ミュージアム・コモンズ──三田キャンパスの創造的「空き地」

2020/03/09

アートを原動力とするグローバル・ハブ

研究機関としてのKeMCoは、収蔵文化財および大学ミュージアムのコンセプトをめぐって高度な実践的研究を展開するが、その成果を国際的に発信し、研究および博物館活動を通じて国際交流を推進することを特に重要な使命ととらえている。KeMCoは、既に2019年9月に、アート・センターと共催で、「文化コモンズとしての大学ミュージアム」と題し、「国際博物館会議 大学博物館・コレクション国際委員会 東京国際セミナー(International Council of Museums, Committee for University Museums and Collections)」を開催し、参加した17カ国の大学ミュージアムの専門家から高い評価と賞賛を得た。館内の施設を活用して国際会議や共同ワークショップを今後も積極的に開催する予定である。さらに、義塾収蔵資料の情報を集積し繋いでゆくデータベースを構築し、海外の博物館データベースと連携させることで、国際的なネットワークのなかで恒常的に情報を共有、交流させる仕組みを整備する予定である。

先進的なデジタル環境

KeMCoはその活動の基盤にデジタルとアナログの融合を据えている。義塾が所有する多様な文化財(アナログ)を展示公開し、教育に活用し、研究する活動は、常に先進的なデジタルインフラによって支えられる。KeMCoの開設準備には、文化財を研究対象とする研究者だけではなく、DMCセンターなどから情報工学系の研究者が参加しており、構想の当初から、方法論とコンセプトの両方において文理融合をめざし、総合大学でこそ可能となる統合的研究環境の整備を念頭においている。

その実現のために、重野寛理工学部教授(DMCセンター所長)をリーダーとした「デジタル・アナログ融合プロジェクト・ワーキング・グループ」を組織して、館内のデジタル環境の整備、そして文化財のデジタル化とデジタル・ファブリケーションの機能を備えた「I/O(input/output)ルーム」の設計を行っている。「I/Oルーム」は、アナログの文化財とデジタル環境をシームレスに連携させることを目的として、実験的なツールを気軽に試せる場であり、3Dにも対応したデジタル化のためのスタジオ環境、デジタルコンテンツをフィジカルに創作するための3Dプリンタ、工具、ソフトウェアなどを備えた工房である。こうした施設をミュージアムと一体として持ち、公開活用している機関は世界的にも例がない。「I/Oルーム」では、文化財に対して、各自が新たな自分のコンテクストをデジタル的に付与して拡張するだけでなく、たとえば2次創作などのかたちでのデジタル創作を試みることもできる。「I/Oルーム」は、デジタルとアナログのあいだを自由に行き来する環境を提供することで、文化財の研究のみならず、作品を起点とした学びや交流の機会を提供するのである。

開館および開館後に向けて

2019年7月には、KeMCoの活動方針、新施設と収蔵予定のコレクションの概要などをまとめたメディアキットを全教員に配付し、新施設開館に向けてのプレサイトもオープンしている〈https://kemco.keio.ac.jp/〉。プレサイトでは、SNSによって開館準備の進捗情報や慶應義塾の文化財に関連した展示情報を適宜配信しており、またウェブカメラによる定点撮影映像も随時公開している。新施設竣工後の本年10月にはKeMCoのプレオープン企画が予定されており、また同時期に完成予定の旧図書館内の「福澤諭吉記念慶應義塾史展示館」やアート・センターのアート・スペース、図書館新館内の展示室と協力して、連携展示(仮題:慶應義塾の「人間交際」)が準備中である。

2021年春の開館後は、まずは常設展示、センチュリー文化財団からの寄贈美術品や慶應義塾の文化財を対象とした企画展示を定期的に実施するとともに、演習型の授業、一貫教育校を対象とした体験型授業などに活用される。さらに、「I/Oルーム」を活用した共同研究プロジェクト、コンフェランス・ルームでの国際ワークショップなどを積極的に企画してゆく。

KeMCoは慶應義塾のキャンパス、さらには三田という地域コミュニティの創造的空き地である。その限られたスペースを有効に、逆転の発想で狭さをひとつのメリットとして構想することで、制約の少ない広々とした展示・収蔵スペースでは発想が難しい、独創的な試みが可能となる。慶應義塾における文化財をめぐる活動のハブとなり、斬新な試みのためのポータルとなるためには、塾員との緊密な連携、協力が不可欠である。世界初のミュージアム・コモンズの活動への幅広い支援をお願いする次第である。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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