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慶應義塾ミュージアム・コモンズ──三田キャンパスの創造的「空き地」

2020/03/09

三田キャンパスの「分散型ミュージアム」のハブ

KeMCoは、アートをめぐる創造的交流の場を提供するだけでなく、KeMCoをはじめとする慶應義塾における文化財を対象とした教育、研究活動の中枢、ハブとして機能し、先進的な活動への入口(ポータル)となることをその役割としている。

三田キャンパスでは2019年6月に耐震工事が終了した図書館旧館にも塾史関連の展示室(福澤諭吉記念慶應義塾史展示館)が準備中であり、それによりKeMCoが開館する2021年には、三田にはアート・スペース、図書館展示室とともに、4カ所に常設展示あるいは企画展が可能なスペースが揃う。これらは緩やかな連携を持つ三田キャンパスの「分散型ミュージアム」として、塾内外から広く来場者を受け入れることになる。KeMCoはそのハブとして機能して連携展を企画するとともに、各組織が独自に企画、運営する展示等のイベントへの助言等のサポートをする。

義塾文化財を対象とした統合データベースの整備

アートをめぐるハブとしての機能は、複数のかたちで展開される。義塾が所蔵する美術品や文化財は、慶應義塾各所に分散して所蔵、管理されているが、全文化財の情報を統合したデータベースや、アートをめぐるさまざまな活動や研究を記録、保存するアーカイブも未だに存在しない。KeMCoでは、義塾の美術品管理運用委員会、文化財を所有している諸部門と協力して、(1)慶應義塾が所蔵する文化財情報を蓄積するデータベース、(2)アートをめぐるイベント情報を随時蓄積してゆくデータベース、(3)さらに将来的には教育や研究の活用例やそのためのツールやコンテンツを収蔵管理するリポジトリを整備し、これらを連携させることで、慶應義塾のアートを統合的に管理、発信するためのミュージアム・システムを構築する。

さらに、このシステムを基盤として、開放的なデジタル展示環境を作り出す。展示室では、個々の展示品を包み込むように、さまざまな関連情報をデジタル的に展開して鑑賞のための文脈を提供するとともに、義塾が所蔵する他の文化財、さらには世界中の展示品へとヴァーチャルに連想の網を広げてゆくことで、文化財を多様な視点から鑑賞し、さらには研究するための環境を作り出す。個々の来館者は自分の端末を介してそうした文脈を持ち帰ることができるので、来館者の個人的体験を軸として、KeMCoは義塾の外へとさらに広がってゆくのである。

オブジェクト・ベースの教育・研究の発信地

KeMCoでは、ミュージアム専門家の育成のみならず、大学生や一貫教育校の生徒、さらには社会人を対象としたさまざまなレベルでの教育活動を展開し、多様な学習者に積極的に働きかける予定である。全学部の大学生を対象としたKeMCo講座「ミュージアムとコモンズ」を2020年度から開設するほか、一貫教育校の生徒を対象として、KeMCoへの来館を核としたフィールドワーク的なアクティビティを検討する。それは館内だけで完結するわけではなく、KeMCoをハブとして、慶應義塾のキャンパス全体をオープン・ミュージアムとして活用し、大学・地域の歴史や文化の体験教育を実現する。

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