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【慶應看護100年インタビュー】戦時に小泉信三先生を看護して

2018/12/20

小泉先生の入院

——信濃町の空襲が24日の未明、そして翌日25日の夜が三田の空襲で、そこで小泉先生が被災されて大火傷を負われ、翌朝、慶應病院に運び込まれるわけですね。そのときのことは覚えていらっしゃいますか。

加藤 外来でアンプタをしていたときに、同じ27回生だった前田照子さんは、外の廊下で島田信勝教授が、「小泉先生が火傷をしたから、これから車で迎えに行ってくる」と怒鳴っている声が聞こえたって言うんですね。私はそれは聞いていないんですけど。

須田 私はそのとき別館の病室担当の看護をしていたんです。それで、塾長が火傷をして入ってきたというので別館南1階の一番奥の部屋を空けて、そこに入れたんです。

——では、もうそのときからご覧になっている。

須田 はい。ひどい火傷で皮膚が爛れてしまっていて、すぐに教授が処置をして、それを手伝いました。

——どんな処置をしていたか覚えていらっしゃいますか?

須田 あの時はこれといって薬がないんですよ。だからマーキュロをつけて、それで膏薬がありましたので、それをガーゼに伸ばして目だけ出して、顔に貼ったんです。それで包帯して……。包帯だってなくて本当に困りました。

加藤 小泉先生は最初の治療のときに「痛い」と言ったら、竹内實先生に「これだけのケガをしたら痛いのは当たり前だ」と言われて、それから「痛い」とは一切言わなくなったと聞きました。

須田 ええ、とても我慢強くていらして、ガーゼ交換のときも決して「痛い」とは言いませんでしたよ。

——処置や手術の中心になっていたのは、木村博先生ですか?

加藤 はい、すごく手先の器用な先生でした。

須田 植皮手術も木村先生がしました。私は1カ月半くらい病室にいて、その後、手術室に回されたんです。その後も病室と手術室を行ったり来たりしていましたが、小泉先生の最後の植皮手術を木村先生がおやりになるときに私も付きました。

そのときはお腹から皮膚を移植したんです。脚からはもう何回も少しずつ移植していて、取りきれなくなっていたのですね。

「専属チーム」で看護にあたる

——最初は専属チームではなく、病棟の看護婦さんが交代で小泉先生を担当されていたのですよね。

須田 はい。それから、病棟が忙しくてしょうがないからどうにかしてくれ、と誰かが言って、専属チームができたんです。

加藤 それで、私が専属チームに行ったのが10月頃でしょうか。もうずいぶんよくなられていた頃ですね。

——専属の方は何人で付いていらしたんですか?

加藤 2人です。1級上の高梨たみさん(26回生)とペアを組みました。日勤と夜勤の2交替でした。

——ほかにどなたが専属で配置されたのかはわかりますか?

加藤 須田さん、高梨さんのほかに、日下部ハマさん、井上朝子さん、戸村花江さん(以上27回生)、そして1級下に三田ちゑさん(28回生)がおりました。三田さんは早い時期、5月の入院直後から担当されたと伺っています。

でも、私も高梨さんと日下部さん以外は、つい最近までどなたが担当していたのか知らなかったんです。慶應看護の教育はどの患者を誰が担当していたか、などの話を一切しない。それほど守秘義務が徹底されていたのですね。だからクラス会などでも一切小泉先生のお話は出ませんでした。須田さんのことも今回インタビューを受けるので、存命の同期皆に電話をかけてみて初めてわかり、ビックリしたんです。

——それは、すごいですね。皆、慶應看護の気概を大切に過ごして来られたのですね。加藤さんはどのくらい専属をされていたのですか?

加藤 それが2週間程なんですよ。なぜなら病気になってしまって……。伝染病棟が焼けてしまったでしょう。それでチフスの疑似感染者が多く出て、私も熱が出たので疑われ、大久保病院に運ばれてしまったんです。

須田 それで、私があなたの後を引き継いで専属チームになったのよね。もっともそれは夜勤だけで、昼間は病室勤務です。

加藤 私の前に専属だった同期の日下部ハマさんに「今度小泉先生に付き添うことになりましたので、よろしくお願いします」と言ったら、「あんた、よかったわね。先生、今は新聞をご自分で読まれるから」って。

最初の頃は、看護婦が新聞を読んで差し上げていたそうなんですね。そうすると読めない漢字がいっぱいありますでしょう。そこでつかえたり、間違って読んだりすると、先生が「それはこういうふうに言うんだよ」っておっしゃるんですって(笑)。

だから、朝、新聞が来るとまず目を通して、医師に聞いて難しい字はカナ振ってから小泉先生のところで、新聞を読んで差し上げたそうです。私が付いたときは、確かに新聞は1人で読まれるほどに回復されていました。

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