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【講演録】戦後日本と小泉信三──没後50年に際して

2017/04/01

現在の政治状況と小泉信三の論法

それから、集団的自衛権を認めてはだめだという人がたくさんいるわけです。限定的であれ、認めない。それは戦争に行くための法案だと言っているわけです。日米安保条約に基づいてアメリカ軍が日本にいます。「戦争法案」だと言うなら、米軍がいること自体が戦争に巻き込まれることになるのです。安保法案に反対するならば、まず、「アメリカ軍は出ていってください。日本の防衛は自分たちでやりますから」と、なぜ言わないのですか。そこは口をぬぐって言わない。変じゃないですか。小泉さんが全面講和論を批判したのと同じ論法で今の政治を論ずることが十分可能です。

閣議決定で政府が集団的自衛権を憲法9条違反だと言っていたのに、その閣議決定を見直すというのは立憲主義に反すると言う。これもまた変です。自衛隊は違憲の存在ではないと閣議決定しています。では、それも見直してはだめなのですか、政府の決定は正しいのですか、という話になりますよ。いろいろな考え方があっていいが、要するに理屈に合わないと私は思っている。ダブルスタンダード(二重基準)ですよ。今日いらっしゃっている方もいろいろなご意見もあるでしょう。だけど、少なくとも小泉さんが批判しているのは二重基準ではいけないということだと思います。

ここから何が導き出されるか。言論人は、学者もそうですが、自分の言ったことの責任をきちんと取ってくれということです。学者とはいかにあるべきかということも私は考えます。東大名誉教授の三谷太一郎さんという人がいます。私は非常に尊敬しています。なぜかというと、戦前の吉野作造、原敬についていろいろと書いているのですが、それを読むと、今の政治家や、ものの考え方に対する批判になっている。厳正な学問的成果自体が今を批判する視点を私たちに与えてくれるからです。

ところが、最近書かれた『戦後民主主義をどう生きるか』の中に、この安保法案についての批判が書いてある。読んでいると、私は違うなと思うのです。いま小泉さんが批判されたようなことを非常に感ずる。学者はあくまでも厳正な学問的態度をもって現状を批判することが大事な対処の仕方ではないのかと思うのです。

そうやって見てくると、『共産主義批判の常識』や『平和論』は、ぜひこれからも広く読まれる形で残ってほしいと思います。今回、それぞれの論文に目を通してみて、その先見性に驚き、小泉さんは没後50年ですが、現在の状況と全く重なり合うと、評価して見なければいけないと思いました。

3つ目の皇室との関係については、もうくだくだしく述べません。福澤諭吉の『帝室論』は、小泉さんが今上天皇へのご進講で一緒に読んだ。そして、天皇のあるべき姿を福澤の『帝室論』を一緒に読むことによって教えられたんです。なぜ、帝室はこれだけ長い間、保たれてきたのか。それは政治の外にあるからです。『帝室論』は明治15年に書かれたものですが、その中で帝室(皇室)とは何かを説いています。

「帝室とは政治社外のものなり」で始まり、「国会の政府は二様の政党相争うて、火の如く水の如く、盛夏の如く厳冬の如くならんと雖ども、帝室は独り万年の春にして、人民これを仰げば悠然として和気を催すべし」と書いてあります。私はこれが天皇制の本質だと思っている。長く永続した最大の理由だと思っています。

いま天皇陛下の退位問題が議論になっていますが、福澤諭吉の『帝室論』を是非読んでいただきたい。小泉さん自身が書いた「帝室論」は、よりわかりやすくこのことを書いています。

今日はご清聴ありがとうございました。

(本稿は2016年12月8日に行われた「小泉信三記念講座」の講演に加筆、修正したものです。)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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