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【特集:大学発スタートアップの展望】
新堂 信昭:慶應が目指す大学発スタートアップ支援の形

2024/05/07

  • 新堂 信昭(しんどう のぶあき)

    慶應義塾大学イノベーション推進本部スタートアップ部門長・特任教授

1.はじめに

慶應義塾大学にとってスタートアップの育成が重要な理由が2つあります。1つ目は、大学に対する社会的な要請の変化です。従来の大学の使命は教育と研究とされてきましたが、近年ではこれらの成果を社会課題解決やイノベーション創出に繋げるなど社会に貢献することが求められています。もう1つは、慶應義塾の目的となっている「全社会の先導者」を育てることです。起業家精神を発揮し、困難を乗り越え、新しい分野を開拓していくのは慶應義塾創立以来の伝統です。この伝統を継承し、スタートアップを育成することで、先導的なリーダーシップを持つ人材を輩出していきます。

2.慶應義塾大学におけるスタートアップ育成の現状

本学は特色ある10学部・14研究科・30の研究所・センター等からなる総合大学であり、多岐にわたる教育や研究の成果に基づいたスタートアップが数多く生まれています。経済産業省「令和4年度大学発ベンチャー実態等調査」(2023年5月発表)では、本学発ベンチャー企業数は236社へと増加し(前年度は175社)、増加数で全国第1位、総数でも第3位に躍進しました(前年度は第5位)。また、株式会社ユーザベースが発行する「Japan Startup Finance 2023」(2024年1月発表)では、大学発スタートアップの大学別資金調達額で本学発が第1位(約510億円)となっています。

これらの躍進の背景には、学部・研究科ごとに行われている様々なアントレプレナーシップ教育による起業家精神の養成、大学本部のイノベーション推進本部に新設されたスタートアップ部門(後述)や大学ベンチャーキャピタルである株式会社慶應イノベーション・イニシアティブ(KII)によるスタートアップ支援、また、社中協力の精神に基づく本学独自の協力支援のしくみ(大学エコシステム)などがあります。これらを踏まえて本学のスタートアップ育成の取り組みについてご紹介します。

3.スタートアップ部門の設立

本学では様々なアントレプレナーシップ教育が行われている一方、スタートアップ育成については、かつては学内に十分な体制が整っておらず、学内の起業家や研究者の自助努力などに頼っていました。2021年度、現執行部により、大学の産学連携機能を担う本部組織であるイノベーション推進本部にスタートアップ部門が設立されました。2024年5月現在、本部門には産業界出身の専任の実務家教員6名が在籍しており(https://innov.keio.ac.jp/about/startup/)、イノベーション推進本部内の知的資産部門やオープンイノベーション部門、戦略企画室との協働により本学の研究成果の産業化の促進を進めると共に、慶應イノベーション・イニシアティブとの連携を進めながら、大学発スタートアップの育成支援活動を積極的に推進しています。

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