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【特集:物流危機を考える】
松川弘明:2024年問題の本質

2023/12/05

5 データドリブンの最適化へ

2024年問題は来年4月突然起きる問題ではない。この問題が起きるまでに34年間の年月が流れ、一般貨物運送業者の増加と特別積み合わせ貨物運送業者の減少が進行し、物流業界にひずみが生じているのが問題の背後にある。できるだけ早く、鉄道と内航海運を含めた全国の貨物輸送能力と負荷の分析、および各種施策のダイナミックシミュレーションを実施すべきである。ISO 14083対策だけ考えてもモーダルシフトを再考する必要があり、物流のキャパを考えるのであれば倉庫で眠らせている時間も含めてシステム全体の平準化を考える必要がある。倉庫に眠らせながら遅延が発生することを問題視してドライバーにハードな運転を強要するのは管理者の怠慢である。

物流は調達物流、社内(製造)物流、および商品物流に分類されていることを強調したい。調達物流にも長距離輸送があり、社内物流にも長距離輸送がある。調達物流や社内物流におけるキャパを有効利用すればキャパ不足の問題を緩和できる可能性が高い。そもそも東名阪における物流の帰り便がすべて空車であると仮定した場合、2倍の運転手が働いていたことになるので、その半分を効率化するだけでキャパの問題は変動の許容範囲内に抑えられる。

物流予測と計画の精度が悪いために発生する問題も多い。長距離運送では連続運転時間の制約や連続休息時間の制約のために、いままでも複数人の運転手が1台のトラックを運転することがあり、今後は競争しながらも協力する体制を構築し、物流の効率化を進める基盤を作らなければならない。トラボックスなど既存の社会資源を有効活用すれば仕組みを変えるだけでよく、追加投資も必要ない。

最後に、商学では商流を物流と呼び、商流の最適化に関する研究を長年行っている。いま商流と物流(輸配送)は独立しているが、まず商流では荷主企業と運送業者が協力して最適化する必要があり、それに基づいて物流も最適化を行う必要がある。悪い商習慣があることは確かだが、それより重要なのは協力によって利益が向上すると示すことである。大量のデータを切り売りするのではなく、それを加工して付加価値情報を生成し、これを用いて協力が利益を生むことを示す必要がある。データドリブンの科学的な管理法を荷主企業や物流企業の意思決定に取り入れ、政策立案に活用しなければならない。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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