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【特集:循環する経済と社会へ】
田中浩也:「デジタル駆動超資源循環参加型社会共創拠点」の発足について

2022/12/05

「消費者」から「循環者」へ変わる市民意識

「共創の場形成支援プログラム(COI-NEXT)」では「人が変わる、大学が変わる、社会が変わる」というスローガンが掲げられています。従来のリニアエコノミー時代は、企業が「ものを製造販売」し、市民が「ものを購買使用、廃棄」し、自治体が「廃棄物を処理する」という役割分担でした。しかし来たるべき循環型社会においては、企業はものを販売するだけでなく「販売したものを回収する責任」までを、自治体は廃棄物を処理するだけでなく「回収した資源を地域の新たな豊かさにつなげる役割」までを担うことになります。そしてそれらを繋げる役割になる市民にも、従来の「消費者」とは異なる、新たな市民意識が必要となります。

しかしそれは、必要に駆られてというよりも、むしろ、市民自身の内面から自然に芽生え始めているようにも思われます。オリンピックの表彰台をつくる際に用いた24.5トンのリサイクル材料のうち、13トンは市民が学校やスーパー、ドラッグストアなどに設置した回収ボックスに投函してくれたものでした。こうした新たな市民意識や行動に明瞭な輪郭を与えるべく、私たちは「循環者」という言葉を使っていくことにしました。従来の「消費者」とは異なる意識変革や行動変容の内実を明らかにし、そのさらなる拡大・浸透・定着へと先導していきたいと考えています。

ごみを資源に、資源からまちの資産へ

「循環者」が暮らす未来のまちは、現在とは異なる施設や仕組みが導入されたものになるはずです。プロジェクトに参画する企業24社、とくに大成建設株式会社との長時間のディスカッションがもとになり、「みらいの都市像」の原案が生まれ、4分間のビデオムービーにまとめて公開しました[図2]。

この動画で描いているのは、さまざまな産業から出る資源を次々とつなげ、転用していくカスケード利用を進め、これまでは有効活用されなかったプラスチックや自然から発生する不要物も含めて、「ごみを資源に、さらに、資源からまちの資産へ」と積極的に価値を高めていく都市の姿です。比較的短命の製品(フローの製品)は、なるべく長寿命の製品(ストック型の人工物)へとかたちを変えていくことを目指しています。動画で描いたビジョンの実現に向け、JR鎌倉駅から徒歩5分の立地にサテライトラボを開設しました。キックオフシンポジウムには松尾崇鎌倉市長にも参加いただき、伊藤塾長も交え、活発な意見交換が行われました[図3]。ここで基調講演を担当いただいた理工学部・宮本憲二教授とはその後、鎌倉市内の小学校にて、微生物によるプラスチック分解の特別授業や実験も進めています。

図3 2022年6月4日のサテライトラボ開所式におけるテープカットの様子。左から、伊藤公平塾長、井上睦子文部科学省産業連携地域振興課長、中川雅人COI-NEXT地域共創分野プログラムオフィサー、松尾崇鎌倉市長、筆者
6月4日に開催されたキックオフシンポジウムはハイブリッド形式で運営され、会場には64名、オンラインでは223名が参加した。3時間にわたった会は、久保田陽彦氏(鎌倉三田会会長、鎌倉商工会議所会頭、豊島屋社長)の閉会挨拶で締めくくられた。

資源循環都市ネットワークの拡がり

本プロジェクトは、鎌倉市を最初の舞台として社会実験を進めるものですが、最終的に見据えているのは、国内・国外のさまざまな自治体に、新たな社会モデルを展開していくことです。かつて2001年に、生分解性プラスチックをまちに普及させ、その使用が循環型社会の形成に貢献するかどうかを実証する「カッセル・プロジェクト」が行われました。この舞台となったドイツのカッセル市も、鎌倉と同じ人口20万人規模の都市です。ここから始まった動きがその後世界に広がり、日本でもモデル事業の参考とされました。私たちのサテライトラボには、すでに鎌倉市と「国際都市間連携プログラム」で連携しているスウェーデンのウメオ市とイタリアのヴェネチア市、さらにJICAの「国際交流プログラム」でブータンとインドネシアのジョグジャカルタ市が、視察訪問に訪れました。そこでの議論を経て、人口規模や文化の違いも理解しながら、新たな資源循環都市のネットワークを拡げていくことが私たちの新たな目標にもなりました。

「混合リサイクル式大型3Dプリンタ」は現在、地域から回収されたプラスチックや、コーヒーかすなどを用いて、まちのベンチ、遊具、プランターをつくることなどに活用され始めています。また、「資源回収ボックス」は緑色の「しげんポスト」としてデザインしなおされ、私たちの3Dプリンタで製造し、鎌倉市役所などに設置されました[図4]。このプロジェクトはまだ始まったばかりですが、10年後、20年後の新たな未来社会を牽引すべく、さまざまなステークホルダーや、研究者とともに邁進していきたいと考えています。

図4 株式会社カヤック、鎌倉市、慶應義塾大学、コンソーシアム参加企業の共創による「しげんポスト」は、広告の賞である2022年度ACC TOKYO CREATIVITY AWARDSクリエイティブイノベーション部門で入賞を果たした。

〈注〉

* Bocken,N.M.P.,de Pauw,I.,van der Grinten,B.,Bakker,C.2016.“Product design and business model strategies for a circular economy.”

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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