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【特集:アフターコロナのTOKYO論】
園田康貴:持続可能なまちづくりとエリアマネジメント

2022/08/05

  • 園田 康貴(そのだ やすたか)

    一般財団法人森記念財団都市整備研究所上級研究員・塾員

人々のまちへの思い

日本の都市の多くは今、人口減少、高齢化、地域コミュニティの崩壊、パンデミック、経済停滞、大規模災害、気候変動、環境破壊、資源・エネルギー不足、価値観やライフスタイルの多様化など、複数の課題や事象が複雑に絡まり、最適解を見出せないでいる。本稿では、コロナ危機に直面し、今なお混沌としている東京において、今後目指すべきまちづくりの方向性のヒントを、持続可能なまちづくりとエリアマネジメント(以下、エリマネ)という視点から、事例の紹介をまじえ探ってみたい。

一般的に、多用途複合型の施設を整備する大規模開発や、道路や公園などの公共施設整備を含む土地の区画形質の変更を行う場合は、市街地再開発事業や土地区画整理事業など、いわゆる法定事業によるまちづくりが進められることが多い。これらは、都市計画事業として、防災や住環境の課題を抱える地域や商業機能が著しく低下した地域などを対象に進められるもので、上記の課題の解決とともに、その地域に相応しい役割や機能が付加され、新しい顔としてリニューアルされる。

ただ、まちづくりは新しい顔ができて終わりではない。真価が問われるのは、事業が完成してからである。新しいまちには、住む人、働く人、学ぶ人、憩う人、遊びや買い物や食事などを目的に訪れる人がいる。彼らは、健康的で豊かな生活、ワクワクしドキドキするような体験、様々な人やモノとの出会い、斬新なアイデアが自然に湧き出てくるような刺激的な交流を望み、変貌したまちに期待を膨らませる。人々のこうした思いはコロナ禍でも変わらず、色褪せない。都市の本質的な部分は何があろうと影響を受けない。

エリアマネジメントへの期待

人々の思いを汲み取ることなく、まちにとって過大で分不相応な施設がつくられることがあるが、その段階での軌道修正は難しい。そのようなケースを除き、出来上がったまちが生き生きとし、将来にわたって持続可能なまちであり続けるには、誰かがまちに魂を吹き込み、まち全体にくまなく血液を巡らし、まちを育てていく必要がある。その手法として注目されるのがエリマネである。

エリマネは、市町村単位よりも狭いエリアにおいて、民間が主体となって関係者と協議し、資金や知恵を出し合いながら、自らの意思で持続的にまちの価値、例えば、人々の生活や緑などの周辺環境の質、まちへの愛着心を高める“まち育て”の取り組みである。新しく生まれて間もないまちだけでなく、既存の市街地を活性化したり、今より住みやすい環境に整えるためのエリマネも行われている。

活動内容は、ソフトな活動を中心に多岐にわたる。種類だけでなく規模も大小様々だ。道路などを活用した賑わいづくりのためのイベント開催や広告事業、清掃や防犯活動、ウェブサイトやSNSによる情報発信、コミュニティ形成などの基本的な活動から、知的創造を促す交流の場の提供、ヨガやウォーキングなどの健康プログラムの実施、AIやロボットを活用した人流測定や物流、さらには、地球温暖化対策(エコモビリティの導入など)、生物多様性の保全、地域冷暖房システムの構築、再生可能エネルギーによる電力供給や売電事業、共生社会の実現に向けた社会実験(パラスポーツ普及促進など)など、SDGsやESGを意識した活動まで行われている。

コロナ禍の今、リアルでの交流が阻まれ、対面による関係性の維持が難しくなる一方、密を避けての利用が可能で身近なオープンスペースの価値が見直されている。東京の中心部では、エリマネ団体が、行政の理解と支援を受けて、無味乾燥な道路空間にグリーンを配し、無料Wi-Fiが使えるワークスペースや憩いの場、飲食店などを設えた空間を見かけるようになった。このような人間味に溢れ、彩りある空間がもっと増えてくればいいと思っている。今後は、管理者がさほど厳しい制限を加えず、利用者が周りになんとなく気をつかいながらも、それぞれ思い思いに使い方をカスタマイズできるオープンスペースが増えることを期待している。

エリアマネジメントのチカラ

まちづくりの計画段階から、関係者が地域の課題や資源(道路、公園、広場、グリーン、河川、港湾、民間空地、景観、歴史的資産など)を認識し、まちのあるべき方向性やビジョンを共有するための議論を重ね、知恵を絞り、トライアル・アンド・エラーを繰り返し、上に例示したような地域独自の活動に繋げることこそがエリマネの核心である。

エリマネには、人々の繋がりとしての社会関係資本を構築し、当該資本と地域資源をクロスオーバーさせ、新たな活動や価値を創造していくというクリエイティブな要素がつまっている。この要素こそが複雑に絡みあった都市の課題を紐解く鍵であり、都市を正常な状態へ導き、競争力を高める原動力になると筆者は考えている。

東京の中心部では今、世界屈指の都市に比べ遜色のない魅力的な拠点を作るために、国が指定した地域(都市再生緊急整備地域)において大規模開発が進められている。中でも、計画段階から開発後のエリマネを意識して、関係者と協議を重ねながら地域独自の活動を進めてきた(または進めようとしている)事例を紹介したい。

本稿では、エリマネ団体を繋ぐ全国組織である全国エリアマネジメントネットワーク(会長:小林重敬、2022年7月現在48のエリマネ団体が加入)の会員が活動するエリアのうち、港区の(1)竹芝地区、(2)虎ノ門ヒルズ周辺地区、(3)虎ノ門・麻布台地区を取り上げ、エリマネの仕組みと競争力を高める原動力の具体的な中身を探ってみたい。3つの地区に共通するのは、既成概念を打ち破り新たな価値を生み出す突破口としての様々な要素のクロスオーバーである。

(1)ワクワクを超えるまち:竹芝地区

港区のウォーターフロントというと真っ先にお台場を思い浮かべる人が多いと思うが、羽田空港へのモノレールの起点(浜松町駅)に隣接し、島しょ地域へのフェリー発着ふ頭がある空と海のゲートウェイ、竹芝地区(港区海岸1丁目)が今熱い。

2020年に「東京ポートシティ竹芝」がオープンし、魅力溢れる空間に様変わりした(図1)。同施設は、都有地の有効活用として公募プロポーザルが行われ、選ばれた事業者が整備した業務・商業機能の複合施設である。公募の条件に特徴があり、都有地を含むエリア(約28ヘクタール)を対象にエリマネ団体を立ち上げて、東京都の「竹芝地区まちづくりガイドライン」に沿って活動を進めることが明記された。これを受けて、上記施設がオープンするまでの7年間に、エリマネ準備会(現エリマネ団体:(一社)竹芝エリアマネジメント)と地権者等による協議の場である竹芝地区まちづくり協議会が設立され、両輪体制により、地域資産(庭園、ふ頭、水面)を活用したイベント(例:竹芝夏ふぇす、旧芝離宮夜会)などが進められてきた(図2)。

図1 竹芝地区
出典:一般社団法人竹芝エリアマネジメントウェブサイト
図2 旧芝離宮恩賜庭園夜間ライトアップイベント「旧 芝離宮夜会」
提供:一般社団法人竹芝エリアマネジメント

また、地域関係者が当地区の将来像についての議論を重ねた結果、2022年3月に「ワクワクを超えるまち 世界的な水辺」を目標とする未来ビジョンを策定した。地域との関係性を築くことから始めて、環境美化や防災活動、イベント開催や情報発信などの基本的な活動を着実にこなし、上記施設のオープン後は、ステップアップして施設のテナントと連携し、新技術を活用したビルのスマートシティ化やデジタル産業の振興などを進めており、今後の取組みが大いに期待される。

(2)創造性が発揮されるまち:虎ノ門ヒルズ周辺地区

虎ノ門ヒルズ周辺地区では、道路の上下空間に建築物を建てる立体道路制度を活用した「虎ノ門ヒルズ 森タワー」の竣工(2014年)をきっかけに、エリマネ団体の(一社)新虎通りエリアマネジメントが、森タワーと一体的に開発された環状第2号線の地上部である新虎通り沿道を対象に、道路を活用した文化・情報発信イベントや常設店舗の運営などのエリマネ活動を進めている。

エリマネ団体の活動エリアと一部重なる区域(港区虎ノ門1・2丁目と愛宕1丁目の一部:地区面積7.5ヘクタール)で今、森ビル株式会社の主導により真の国際新都心を目指す壮大なプロジェクトが進められている。2020年に「虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー」と東京メトロ日比谷線「虎ノ門ヒルズ駅」が、2022年に「虎ノ門ヒルズ レジデンシャルタワー」が立て続けに竣工・開業し、現在「(仮称)虎ノ門ヒルズ ステーションタワー」(2023年7月竣工予定)が建設中である(図3)。同地区では、国際水準のオフィス、住宅、ホテル、商業施設、インキュベーションセンター、交通インフラ、緑地など、様々な都市機能が徒歩圏内に整備されつつあり、すべてが完成すれば、人々が虎ノ門に対して抱く純粋なオフィス街としてのイメージが劇的に変わると思われる。また、すでに新虎通り沿道で行われているエリマネ活動と合わせて、既成市街地を含むまちの一体的な運営が今後適切に行われるようになれば、その相乗効果は計り知れない。相乗効果の鍵を握るのが、イノベーションやインキュベーション機能などのクリエイティブな要素だと筆者は考える。

図3 虎ノ門ヒルズ周辺地区
出典:森ビル株式会社資料

注目される動きとして、新虎通り沿道のビル「新虎通りCORE」のカフェ・イベントスペース「THE COREKITCHEN / SPACE」において、東大生産技術研究所(IIS)と英国王立美術大学院大学ロイヤル・カレッジ・オブ・アート(RCA)との連携による教育プログラムDESIGN ACADEMY が開催されたり、「虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー」に事務所を構えるイノベーションに特化したシェアオフィス「CIC Tokyo」と、大企業を対象としたインキュベーション施設「ARCH 虎ノ門ヒルズ インキュベーションセンター」が活動を始めている。

(3)新たなライフスタイルに出会えるまち:虎ノ門・麻布台地区

こちらも森ビル株式会社が中心となって進める、外苑東通り、桜田通り、麻布通りに囲まれた地区面積8.1ヘクタールの第一種市街地再開発事業による大規模複合開発プロジェクトである。1989年の街づくり協議会の設立以来30年にわたって、約300人の権利者や行政との協議が進められ、2019年に着工し、来年に竣工を迎える。ここでは、地区面積の約3割(2.4ヘクタール)を広大な緑空間として整備し、その中に建物を無理なく配置する手法をとっているのが特徴だ(図4, 5)。2万人の就業者、3,500人の居住者、年間2,500~3,000万人の来街者を見込み、これまでにない未来形のまちが港区に出現する。

図4 虎ノ門・麻布台地区プロジェクト 配置図
出典:森ビル株式会社資料
図5 虎ノ門・麻布台地区プロジェクト 中央広場を のぞむホテルのレストランイメージ
出典:森ビル株式会社資料 Ⓒ DBox for Mori Building Co.

また、このプロジェクトは、多様な都市機能とウォーカブル空間と再生可能エネルギーによる電力供給などが評価され、2021年に米国グリーンビルディング協会(USGBC)による国際環境性能認証制度「LEED(Leadership in Energy & Environmental Design)」のエリア開発を対象とした「ND(Neighborhood Development)」カテゴリーにおいて、最高ランクのプラチナ予備認証(都内初の事例)を取得した。

この地区も竣工してからが新たなスタートであり、虎ノ門ヒルズ周辺地区と同様に現在地区運営に向けた準備が着々と進められている。

この地に住み、働き、遊び、学び、訪れる人たちが、無限の可能性を秘めた圧倒的な緑(Green)に囲まれ、健康でいきいきとした(Wellness)ライフスタイルを送れる多様なプログラムが提供されることを期待している。

持続可能なまちづくりとエリアマネジメント

持続可能なまちづくりの考え方や手法の一つとしてエリマネは有効だと考える。事例からエリマネの今後の役割を俯瞰すると、都市の大きさに関係なく、人が織りなす活動と自然のバランスを上手に保ちながら、いかにクリエイティブな思考で新しい事業を創造するか、いかに多様な人々の思いやニーズをくみ取り、新たなライフスタイルを提案するか、そして、それによってまちのイメージの更新や生活満足度のアップをどう図っていくかが問われていると思う。

竹芝地区では、エリマネにより広大な水辺やふ頭や庭園、新技術を活かして人々の想像の範囲を超えるようなライフスタイルを提案することを、虎ノ門ヒルズ周辺地区では、人と人とのオン・オフの交わりを通じて新しいアイデアや仕組みが生まれるような場やサービスの提供を追求することを、虎ノ門・麻布台地区では、緑と健康をテーマとするプログラムやサービスを通じて様々な人々が新たなライフスタイルに出会える環境づくりをそれぞれ目指している。規模は違えども、持続可能性や多様な機能のほか、地域資源の活用、高度なソフトサービスの提供という点で共通する部分は多く、今後の取組みが期待される。

<参考文献>

・小林重敬+森記念財団『まちの価値を高めるエリアマネジメント』学芸出版社、2018年

・小林重敬+森記念財団『エリアマネジメント 効果と財源』学芸出版社、2020年

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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