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【三人閑談】
大豆の力

2025/03/24

  • 大橋 由明(おおはし よしあき)

    フェルメクテス株式会社代表取締役社長。
    立教大学大学院理学研究科化学専攻にて納豆菌遺伝学を研究。2021年慶應義塾大学先端生命科学研究所発のベンチャー企業を立ち上げ、新食材の開発に従事。

  • 植田 滋(うえだ しげる)

    さとの雪食品代表取締役社長、四国化工機代表取締役社長。
    1982年慶應義塾大学商学部卒業。豆腐をはじめとする大豆加工食品の製造に従事。より美味しく、安全な大豆加工食品の可能性を探究。

  • 池上 紗織(いけがみ さおり)

    一般社団法人日本ソイフードマイスター協会代表理事、ソイフード研究家。
    2003年慶應義塾大学文学部卒業。2014年日本ソイフードマイスター協会を設立、大豆料理の研究・開発・普及等を行う。

食材としてのソイフードの面白さ

池上 2011、2年ごろ、台湾精進料理を食べる機会があり、そこで初めて大豆ミートという食材に出合いました。私がソイフードに目覚めるきっかけとなった出来事ですが、今や大豆ミートはスーパーマーケットに並ぶまでになりました。

当時はベジタリアン向けの食材店でしか取り扱いがなかったのですが、私にとっては、初めて食べた時から「これはくるぞ」という直観がありました。

大橋 大豆ミートに何か新しい可能性を感じたのですね。

池上 そうです。私はもともと料理が好きで、豆腐を使った身体に良いアレンジレシピを考案したりしていました。ただ、大豆ミートはそれよりも食材として面白いなというところから関心を持ち始めました。

どういうことかと言うと、調理の仕方によって「どうすれば美味しく食べられるだろう」と考えさせられる気の抜けない存在だからです。

私はベジタリアンではありませんが、大豆ミートと出合い、一生懸命研究しました。というのも、体調がとても良くなっていることに気付いたからです。肌荒れや便秘がなくなり、花粉症の症状もだいぶ改善しました。「これはひょっとすると大豆の力かもしれない」と可能性を感じたのです。

次第にソイフード(大豆を使った料理や食料品)の虜になりました。日本人にとって大豆は身近でなんとなく身体にいいと思っている方は多いと思います。私もその1人でした。

栄養のことなどを学ぶうちに「こんなに素晴らしい食材を広めないのはもったいない」という思いから日本ソイフードマイスター協会という団体を立ち上げ、現在は日々、ソイフードの普及活動に取り組んでいます。「ソイフード」を検索しても何もヒットしなかった時代から、今では普通に通じるようになったことにとても手応えを感じています。

また、大豆と言うと、「だから和食は優れている」とステロタイプのように捉えられることが多くありました。大豆食品と言えば和食、と代名詞のように言われることが多かったのです。そこで、いろいろな種類の食事をとることが当たり前になっている現代の食文化の中で、大豆を和食に閉じ込めておくのはもったいないと思い、私たちは大豆を使った料理を総称してあえて片仮名で「ソイフード」と呼んでいます。

これまでにも、レシピ開発を含め、いろいろな情報を発信したり、講座を開いたりしてきました。最近は、食品メーカーとコラボレーションし、商品開発も行っています。

機械メーカーから豆腐メーカーへ

植田 私は機械メーカーの四国化工機と、その子会社で豆腐製造・販売を手掛けるさとの雪食品という2つの会社で社長を務めています。四国化工機はおもに牛乳やヨーグルトといった乳製品を紙やプラスチックの容器に充填する機械を作っています。その会社がなぜ豆腐を作り始めたかと言うと、50年ほど前に、先代が豆腐を充填する機械を作ったことに遡ります。当時の豆腐業界はまだ手作りの豆腐店が主流で、発展途上にあったことから、この機械を使って豆腐業界の近代化を進めようと一念発起し、さとの雪食品を立ち上げることになりました。

大橋 素朴な疑問ですが、豆腐の製造を始めたことで機械の納品先である乳製品メーカーの不興を買うことはなかったのですか?

植田 豆腐のメーカーは一見乳業メーカーと近いようですが、作っているものは違うんです。ですので、四国化工機の発注企業とは競合せずに済みました。牛乳と豆乳は組成が近いのですが、商品としては別の物なのでいくら作っても乳業メーカーからは怒られません。

それ以来、四国化工機ではBtoBを、さとの雪食品ではBtoCのビジネスをやっています。片方では企業と数億円単位で大型機械の取引きをしながら、もう片方では量販店と50銭単位で売値を交渉しているのが当社グループの特徴です(笑)。

食べられる納豆菌とは

大橋 私は中学から大学院まで立教で学んだのですが、大学では理学部化学科に進み、大学院では納豆菌の遺伝学を専攻していました。学位を取得した後、農水省の食品総合研究所で枯草菌の研究を行っていました。納豆菌とは枯草菌の一種です。

その後、慶應が2001年に、山形県鶴岡市に先端生命科学研究所を開設する際に呼んでもらい、それ以来鶴岡で研究活動を続けています。先端生命科学研究所からはこれまでに8社のベンチャー企業が誕生しており、私が代表を務めるフェルメクテス株式会社は2021年に立ち上がった8番目の会社です。

フェルメクテスでは"食べられる納豆菌"の研究・開発を行っています。SDGsという言葉が広まり、私自身、専門である微生物を生かしながら新しい事業を作れないかと考えていました。納豆菌とは、いわばタンパク質のかたまりなので、菌そのものを食べるというのはどこの研究機関もやっていませんでした。そうした中で、先端生命科学研究所の冨田勝所長(当時)に相談したところ、「面白いからやろう」と言っていただき、ベンチャーで研究開発を始めることになりました。

私はそれまで17年ほどヒューマン・メタボローム・テクノロジーズという、やはり研究所内で立ち上がったベンチャー企業にいたのですが、フェルメクテスを立ち上げるに際してこの会社からも出資してもらうことができました。

池上 大橋さんはもともと納豆を研究されていたわけではないのですか?

大橋 はい、あくまで納豆菌の研究者であって納豆の研究者ではないんです。ですので、大豆愛というよりも、大豆を愛している納豆菌を愛しているというのが正確なところです(笑)。

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