三田評論ONLINE

【三人閑談】
忍者とはなんじゃ?

2024/10/21

  • 高尾 善希(たかお よしき)

    三重大学人文学部文化学科准教授、同学国際忍者研究センター担当教員。
    専門は忍者学、日本近世史。博士(文学)。研究活動の他、マスメディアや各種講座を通じて忍者・忍術研究を広めている。

  • 原 淳一郎(はら じゅんいちろう)

    山形県立米沢女子短期大学日本史学科教授。
    1998年慶應義塾大学文学部卒業、2006年同大学院後期博士課程修了。博士(史学)。日本近世史(山岳信仰史、寺社参詣史)、旅行史を専門に研究。

  • (りん)

    徳川家康と服部半蔵忍者隊メンバー。
    2014年慶應義塾大学総合政策学部卒業、2024年三重大学大学院人文社会科学研究科修士課程修了。専門は近世忍者史研究。忍者として愛知県の観光PRに従事する。

黒装束はフィクション?

高尾 私は三重大学で忍者学の研究をしています。凛さんは昨年度、私の研究室で修士論文を書いて大学院を修了しましたので、いわば指導教員と学生の関係ですが、凛さんは今日、現世によみがえった・・・・・・・・・忍者として参加するということで。生まれは1566年でしたっけ?

 はっ。永禄9年生まれで今年458歳になり申す。普段は「徳川家康と服部半蔵忍者隊(以下、忍者隊)」の一員として、名古屋城にて活動し、平日はお客人と写し絵(写真のこと)を撮ったり、週末は立ち回り( 殺陣(たて))を交えた忍者ショーなどを行っており申す。

出身大学は慶應義塾大学でござる。……が、これは拙者の器と申すか、肉体が慶應義塾大学卒業ということになり申すな。

高尾 依代(よりしろ)が慶應卒ということですね。三重大学大学院には忍者・忍術学コースがあり、これができたのは2018年です。凛さんはその翌年に入ってこられました。

 さよう。その後、5年かけて『鳥取藩御忍(おしのび)の基礎的研究』を題目とし、修士論文を書き申した。おもに鳥取藩を代々支配した池田家の文書「鳥取藩政資料」から、「控帳(ひかえちょう)(家老日記)」、御忍の家の歴史のことについて書かれた「藩士家譜」、御忍ら家臣の名前や禄高も書かれた「御支配帳」などを使いながら、原稿用紙687枚分の論文を毎日書き続け申した。

 随分書きましたね。

 焦燥に駆られて書いて、気づけばこんな枚数になっておった。というのも、忍者隊の任務は「虚業」と申すか、……例えば、拙者が今着ておるこの黒装束は、歌舞伎や小説などが発展するにつれ広まった、創作としての忍者の姿じゃ。故に、拙者がよみがえった時代に、忍者がこのような恰好をしておったわけではござらん。

これを知った時、拙者は拙者自身を、どのように本物であると証明すればよいのか、わからなくなってしまった。その不安から、史実の忍者を研究し始めたのじゃ。研究によって、拙者が何者であるかを知り、これを証明したいと思ったわけじゃな。

高尾 慶應の総合政策学部にいた時には日本史を専攻していたわけではなかったのですね。

 さよう。このような恰好をしておる身でいうのはなんなのじゃが、拙者は歴史に興味がなければ、忍者にも興味がなく……。ただ、忍者が人間であることには興味がござった。これも、拙者が史実の忍者を研究し始めた理由の1つにござる。

高尾 指導教員としてのコメントになりますが、論文を書くにあたり、日本史やくずし字、鳥取藩の基礎的な勉強をしてから執筆を始め、苦節5年かけて書き上げましたよね。学内の賞までもらいました。

 学長賞と研究科長賞をいただき申した。「虚像」としての自分が、どうすれば説得力のある忍者になれるのか、拙者は日々悩んでおった。そして、地に足着いた忍者になるためには、研究をし続けることが必要じゃと思い、一から勉強致し申した。

高尾 原さんは宗教史や旅行史がご専門ですが、忍者もまた宗教者に姿を変えて情報探索したという話があります。

 私は小学生の頃から日本史の研究者になろうと決めていました。大河ドラマなどの影響もあって戦国時代や幕末、源平の時代が好きで、『水滸伝』や『三国志』といった中国史も大好きでした。『水滸伝』には、凛さんのようにいろいろな特技を持っている人が出てきます。

大学で慶應に入り、何を研究しようかと考え、小さい頃から祖父とよく登っていた神奈川県の大山を調べてみようと思ったのが宗教史や修験道を研究する発端です。大山は神奈川県でも西部に住んでいる人くらいにしか知られていない山ですが、意外にも江戸時代は江戸や関東全域から人が訪れていたことがわかりました。史料も豊富にあり、そこで初めて山岳信仰の研究に入っていった形です。それからは伊勢参りを研究したり、大学に近い東北の山の研究をしたりしています。

カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事