三田評論ONLINE

【三人閑談】
格闘王国 ブラジル

2024/09/09

ブラジル人と格闘技

小堤 ブラジル人はラテン系で明るく、好戦的というイメージはあまりありませんが、実際に柔術やカポエイラ出身の選手が総合格闘技の大会で活躍して、優勝することも多い。ブラジル人のメンタリティーは格闘家に向いている、ということでしょうか。

笹森 生き抜くための力がすごい人たちではないかと思います。ブラジルに行くと、インフラが日本より少し劣っていて、道がボコボコだったり、次のバスがいつ来るのかよくわからなかったり、水道や電気が止まることもよくあります。MMA(Mixed Martial Arts)のトップの選手でも、ファベーラという貧民街の出身でチャンピオンになった人もいます。そういった経験が格闘技に生きるのではないかと思います。

困難の中から、明るく生きて、つらい経験も、強さに昇華できる。色々な感情の豊かさがある人たちで、それが生きるために培われてきたのかな、という感覚があります。

小堤 カポエイラは、どのくらい人気があるのですか。

笹森 ブラジルも広いので、地域により全然違うのではないかと思います。本部の道場があるところはバイーア州という、昔の都ですね。港町で、黒人がたくさん連れてこられた場所で、カポエイラも盛んです。

サンパウロやリオデジャネイロといった都市部には残念ながら行ったことがないので詳しくありませんが、ブラジルでは600万人ほど、プレーヤーがいると聞いたこともあり、ポピュラーな競技だと思います。

松田 日本だと、カポエイラはどのくらいの人がやっているのでしょう。

笹森 競技人口はわかりませんが、団体数は大小あわせて60グループぐらいあります。日本全国では、練習場所がない県のほうが少ないぐらいです。

日本は特殊で、ブラジルの大きな団体が先生を派遣するようなことをあまりやっておらず、どちらかというと主にブラジルでやってきた人たちが、自分たちの流派を日本でもやろうと、始めるケースが多い。だから小さな団体がいくつも混在しています。

練習内容・道場の雰囲気

小堤 松田さんの道場に来る方々の、男女比はどのくらいですか。

松田 うちは今、女性の会員はいないのですが、ロサンゼルスのグレイシー本部では、ものすごく多いです。女性用の護身クラスもあります。

笹森 日本だと少ないのですか。

松田 そうですね。グレイシーの本部が特殊なのかもしれません。あそこまで女性がたくさんいる道場も珍しいと思います。雰囲気も、ものすごくフランクです。

小堤 グレイシーファミリーはどんな人たちですか。

松田 彼らは、初代がエリオ、2代目がホリオン、ヒクソン、ホイスなどの兄弟で、今は第3世代にあたります。僕が行っている道場は、ホリオンの息子のヒーロン、ヘナーがトップでやっています。40歳くらいで、彼らはブラジル系ではありますが、生まれも育ちもアメリカなので、考え方がアメリカ的だと思います。

大らかで明るいですが、芯の部分は強い。彼らは自分たちの父、叔父、祖父をものすごく敬い、グレイシー柔術が昔ながらの護身を根幹とした武道であることに誇りを持っています。だからといって厳格すぎるというわけではなく、表面的な物腰はものすごく柔らかい。我々のような中年や女性の方、子どもにとっても入りやすいかと思います。

笹森 グレイシーというと、昔グレイシー・チャレンジという、他流派との試合をよく行っていたので武闘派のイメージがあったのですが、そうではないのですね。

松田 たぶんあれは、彼らが他流試合をしたいとか、道場破り大歓迎という意味でやっていたわけではないと思います。元々エリオがブラジルにいた頃にやっていたのは、柔術の護身術としての有効性を証明したい、ということでした。柔術は最高の護身術だ。自分よりも体重の重い大きな相手からも身を守れるということを証明したい。それを世間に認知してほしいという思いから、他流試合をしていたのだと思います。

ホリオンがUFCを創立したのも同じ思いからだと思います。1993年にUFCはできたのですが、その頃には既に色々な格闘技があったので、誰が一番強いのかを決めるのではなく、どのシステムが護身術として最も有効なのかを決めたいということで、各種目を一堂に会させようという思惑があったのです。

小堤 少林寺拳法の場合、一番盛り上がっていたのが30年ほど前、ちょうどジャッキー・チェンがすごく人気があった頃ですね。さすがにその頃と比べると、部員数も減っていますが、それでも大学から少林寺拳法を始めようとする学生は多いですね。特に女性に人気です。

笹森 どういった動機で始める人が多いですか。

小堤 理由は様々ですね。格闘技として少林寺拳法を学び、競技者として強くなりたいという人、実戦やけんかに強くなりたいと考える人がいる反面、自分の心の強さのようなものを持ちたいと思って来る人もいます。

それから、少林寺拳法を学んだ後、総合格闘技の道へ行く人もいますね。私自身、今は総合格闘技のジムでは教えていませんが、総合的な空手の指導もするので、相談された上で紹介することもあります。

カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事