三田評論ONLINE

【三人閑談】
カワセミの棲む街

2024/05/10

鳥たちの戦い

大田黒 コゲラは、確かに昔はいなかったですよね。急に増えてきて。エナガもそうなりますかね。

柳瀬 エナガは去年、洗足池で子どもたちを見ました。皆、写真を撮りに来て。

大田黒 かわいいものね。

柳瀬 バーッと連なっていて。エナガはいくつかの公園では普通に見られるようになった。

大田黒 昔はどこかに行かないと見られないものでしたよね。

 エナガはたぶん、町にコケが帰ってきたことが効いている。巣を作るときに、メジロもそうだけど、コケやクモを使うでしょう。ただの葉っぱでは巣を作れないんです。

大田黒 あと、鳥の羽がないと作れないですよね。エナガの巣を私は拾ったことがあります。

巣材のコケが緑に光っていて絵に描いたりしましたが、だんだん周りがクズクズになってきてしまったので、全部分解したんですよ。かなりいろいろな種類の羽があり、ハトも入っていました。バンもカラスもあったし、コジュケイやキジもありました。たぶんタカにやられたものなのだと思います。とにかくいろいろなものが入っていた。

 タカが帰ってきたから、エナガが巣をつくれるようになったということですね。

日吉キャンパスは、ツミが来たときに2千羽ぐらいいたカラスが激減したんです。空中戦をやりますが、ツミ1羽でハシブトガラスを5、6羽やっつけてしまう。

大田黒 すごいですね。あんなに小さいのに。

 傷ついたカラスがあちこちにいると、まずオオタカがカラスを食べに来た。驚くことに、ノスリもカラスを食べに来た。ノスリがカラスを食べるなんて思わないでしょう。

大田黒 皆よく見ているね(笑)。

柳瀬 まさに生態系ですね。

 本当によく見ているんです。カラスはツミには絶対勝てない。旋回速度が違いますから、パーンと蹴られてしまう。殺すのではなく、ケガをさせるんですね。

柳瀬 ケガしたものがオオタカやノスリに食べられてしまうんですね。

都心のノスリはカラスにいつもいじられ、羽がボロボロです。

 旋回半径が全然違うからね。オオタカも旋回半径が大きいから、カラスと戦うのがいやなんです。ハイタカは旋回半径が小さいけど、質量が小さいのでカラスに蹴られるとすっ飛んでしまう。タカとカラスのけんかを見ていると飽きない。

大田黒 面白いですね。私はタカが出てきたときの周りのピリッとした緊張感、あれがすごく好きです。

 まず、シーンとしてね。それからカラスがキャーキャーキャーと騒ぎますね。

柳瀬 あ、来たなというのがわかりますよね。都心でも時々あります。

誰も経験したことのないエコシステム

柳瀬 都市のドブ川に見える河川は、生物にとって急峻な渓谷のようなものかもしれないんですね。そこにいるのはアユやヤマメではなく、シナヌマエビとアメリカザリガニなので、情緒はないけれど。

 ユキヤナギが今、都会のビルの乾燥して水がないところで咲いているでしょう。あれはもともとどこの植物かご存じですか? 石川県の渓流のいちばん奥の岩壁にある、水しぶきが上がるような、岩の隙間から生えている木なんです。ところが、それが都会のビルの間の環境にピッタンコだった。

大田黒 そうなんですか。知らなかった。

 そういうことが都市でどんどん起こっていて、単純な世界ではない。自然が戻ったのかというと違うんですよ。新しい誰も体験したことのない都市型のエコシステムができてしまっているので、それを昔風の自然であるとかないとか外来とか言ってもしょうがない時代になっている。

極端に言えば、もう温暖化が起きているのだから地球全体が都市みたいなものです。地球の生物多様性全体を考える時、そのモデルは北上山地や尾瀬ヶ原ではなく、実は東京かもしれない。ここでモザイク的に起こっていることを組み合わせると、これからの都市の世界の生物多様性の未来が読めるかもしれない。

大田黒 なるほど。

 このあたりは日本の自然保護をやっている人たちはついてこられない。あくまで原生自然と奥山、里山、都市があり、自然を保護するのは、都市の駄目になった自然を元に修復することだと言う。でもすでに全然違うものができているんですよ。柳瀬さんが見たカワセミの世界は、もともとは何だったかと考えても、解はどこにもない。

柳瀬 東京の地形の特徴は台地の縁の湧水がつくった小流域が連なっていること。小流域源流地形がいっぱいあって泉を一番偉い人が取っていた。権力の中心だったから、逆にその自然が残されたんですね。

地形的に生き物が暮らしやすい場所で、点のようでいて実は河川流域の構造が意外と体系的に残っている。今、カワセミを一番観察しやすいのはたぶん都心だと思います。

大田黒 そうですね。人への警戒心がないのが一番すごい。そのうち手乗りになるのではないですかね(笑)。魚を持っていたらやって来そうです。

(2024年3月22日、三田キャンパス内で収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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