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【三人閑談】
フライフィッシングに行こう!

2024/04/25

キューバの海でフライフィッシング

星野 昨年10月、コロナ禍が終わったから久しぶりに海外に行こうと、アメリカのオレゴン州のデシューツリバーに行きました。そこにはスティールヘッドというニジマスが海へ下って戻ってきたものがいるのです。60センチぐらいになるのですが、これもまた釣りの仕方が面白い。

ストリーマーとかウェットフライを使ってスイープ(流れを掃くようにフライを動かす動作)させて流すのですが、去年は2回アタリがあってやっと1匹釣れたぐらいですからね。

 スティールヘッドは釣り人の夢の1つですからね。

星野 お勧めしたいのは、キューバです。北欧の人がリゾートをつくっているのですが、そこには釣りのガイドもいて海で釣りができるのです。

魚は何種類かいますが、一番引きが強いのがボーンフィッシュ。船首から船尾まで平らなボートに乗り、手を使ってポールで海底をつついて漕ぎながら、行けども行けども浅いきれいな海を進むのです。

釣り人より1段高い位置に立って海を見渡すガイドの指示で11時の方向へ投げろ、2時の方向へ投げろと言われる。

我々はどこに魚がいるかよくわからない。彼らは魚を見慣れていますから、あそこにいる、こっちにいる、とわかるんですね。これがまた非常に面白いんです。

相馬 すごいですね。本当に世界の釣りにはいろいろありますね。

馬に乗って釣りへ

星野 キューバは2回行きましたけれど面白かったです。相馬さんは、イギリス以外はどうですか。

相馬 アメリカで釣り友達ができて、その仲間たちと一度、モンタナ州の山の上にある湖に行ったことがあったんです。そこまで行くのに車がないので、馬に荷物を載せて、隊列を組んで上がっていくのです。前の日になって、「義郎、お前、馬に乗れるよな」と言われまして(笑)。あのへんの人は、自転車に乗る感覚で皆、馬に乗るのです。

それでいきなり乗馬の特訓を受けました。1日かけて山に上がって、山上湖で釣るのですが、カットスロート(北米原産のニジマスの仲間)が釣れて、面白かったです。

ほぼ底が見えるくらい透明なんですね。真ん中の一番深いところだけが暗くて見えない。見ていると、暗いところから大きなカットスロートがゆっくり泳いでくるのです。だからそこで釣る時は、深いところから上がってくるのをずっと見て待っていて、向こうからのっこらのっこら泳いでくるやつをドライで釣る。

ここはクマとか恐くないのかと聞いたら、「クマはもっと下にいる。ここは標高が高いから大丈夫」ということでした。

星野 日本ですけど、北海道の千歳川という、支笏湖から流れている川には小さな湖がいくつかあって、ボートも降ろせませんから、フローター(釣りに特化した浮き輪状のボート)に乗って釣るのです。

ブラウントラウトだったと思いますが、岸にフライをぶつけるようにして投げると、どんとくるのです。それを1日フローターで浮いていながら釣る。トイレに行くのが大変でしたけどなかなか面白かったですね。

 北海道にもいろいろなところがあるのですね。

釣りを通した人との出会い

 フライフィッシャーであれば、やはり自分が楽しいことをたくさんの人に知ってもらいたい。この釣りを後世に伝えていきたいという思いは、皆持っていると思うのですね。

私も、20代、30代の若い人に、この面白さを共有できればと思うのです。道具は面倒くさいし、お金もかかるし、キャスティングも奥が深いのですが、まず下手でも何でも行ってみて、とりあえず2、3匹釣るところから始めればいいのではないか。極端な話、上手く投げられなくても釣れますから。

根源的な楽しさを、やはりいろいろな人に知ってもらいたいと思います。そのために私もエッセイを書いているんです。

『鱒釣り: アメリカ釣りエッセイ集』という面白い本があるのですが、この中には元アメリカ大統領ジミー・カーターさんが書かれたスプルース・クリーク日誌という1編があります。元大統領という偉い方がどういうことを書いているのかと思って読んでみると、私たちと何も変わらないのですね。

誰よりも朝早く起きて、川へ行って、マナーの悪い釣り師に文句を言って、大物に逃げられて、かんしゃくを起こして帰ってくる。大統領も私たちと何も変わらない。同じ思いで釣りをしているので、まずは敷居を下げて、たくさんの人に楽しんでもらいたいと思っています。

相馬 私はイギリスが多かったですが、フライフィッシャーに限らず、周りの人たちが皆、釣り人に優しいのです。先ほど言いました高いお金を払って釣る川ですが、そのさらに上流はもっと細い川に分かれていて、そこはもう完全に個人の土地なので、そこで釣りたい時は、農家さんに釣ってもいいかと聞くのです。

すると、「お前、どこから来た」と言われ、「日本から来た」と言うと、「日本からこんなところまで来たのか」と驚かれる。そして必ずどこでも同じ質問をされる。スコットランドでは「お前、イングランドとスコットランドはどちらが好きだ」。ウエールズの時は「ウェールズとイングランドとどちらが好きだ」と(笑)。

そうして許可を得て釣りをしていると、その農家の人が車で来て窓から顔を出して、「もっと上、もっと上」と釣り場を教えてくれる。答えは決まっているので、初めから釣らせてあげようとわかりやすい質問をしてくるのです。釣り自体もそうですが、日頃行かないところへ行って、いろいろな人と会える経験ができるのが本当によいなと思っています。

自然との共存を目指す釣りへ

星野 先ほど釣れないのも面白いと言いましたが、やはり釣れなければ究極的には面白くない。これからは自然保護をしっかり考えて、北海道も環境保全をしていくことが大事ですね。

クマが出ることによって守られる川もあるかもしれませんけれど、やはりレギュレーションをしっかり作って、何匹も持って帰らないようにしようということを決めるといったルールをしっかり作ることが大切です。

北海道ではすでに渚滑川(しょこつがわ)などでやっていますけれど、そういったルールを皆で守っていかないと、これからのフライフィッシングは先が厳しくなると思います。

フライフィッシングというのは、情報交換をするにしても奥が深い。単にあそこで釣れる、ここで釣れるだけではなく、システムやフライはどういうものを使ってやるかなど、同好の人との情報交換の量が多くなりますから、非常に面白い。

そういった意味ではフライフィッシングというのは、1つの趣味としてとてもよいものだと思います。

 作家の開高健さんが生前よく言っておられたのが、「釣りは3つある。運と勘と根である」ということ。それにプラスするとすれば、相馬さんも言われた人とのつながりということで、これはものすごく大きい。

初めて会った、国籍も年代も思想も違う人たちがこれだけ打ち解け合えるような趣味はなかなかないと思うのです。もっとたくさんの人が楽しんでくれるとうれしいですね。

自然保護も必要ですし、いろいろな文化を理解することも必要で、もっと若い層に魅力をわかってほしいという思いで私もエッセイを書いていきたいと思っています。

(2024年3月1日、三田キャンパス内で収録)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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