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【三人閑談】
フライフィッシングに行こう!

2024/04/25

キャスティングの楽しさ

相馬 キャスティングなどはある程度練習しないと、狙ったポイントに投げるのが難しいというのもありますね。

星野 キャスティングが好きな方もいるのです。釣魚会OBで多摩川でキャスティングの練習をしている人がいますが、これも楽しみなんですね。要するに、ゴルフで言ったら練習場プロみたいな人がいるわけです。多摩川などではそういうクラブというか集まりがありますね。

 投げることが楽しい。

星野 遠くへ投げる競争をするとか。全然釣らないわけではないでしょうけれども、そういうキャスティングの楽しみもあるのです。

相馬 私は毛鉤を巻くのも下手だし、キャスティングも特に習ったことはないのです。

習ったといえば、ラインメンディングといって、川の流れにラインが乗って引っ張られないよう、あらかじめそれを回避するキャストの技術です。フライがラインに引かれてピュッと水面を走るともう魚が食いつかないので、なるべく自然に流れるように、ラインをあらかじめ投げた直後にロッドを返して、フライを上手く上流側に倒して、時間を稼ぐのですが、これが難しい。

星野 場所場所で投げ方も違ってきますからね。キャスティングは基本はオーバーヘッドという投げ方ですが、前後にラインを伸ばしてロッドを振るので後ろに木があるところだと引っかかってしまう。

だから20年くらい前に、スペイキャストという水面にラインを置いてロッドに負荷をかけて投げるやり方が生まれて大流行なんです。この投げ方は、スコットランドにスペイ川というのがあって、そこが発祥地です。

でも、むしろ北海道の猿払(さるふつ)川などでのイトウ釣りは、もうオーバーヘッドで、いかに遠くへ投げて範囲を広げるかという釣りになります。場所と魚によって、どういうライン、システムを使って釣るかというのがなかなか難しい。理屈はわかっても、どれをどう選んで組み合わせたらいいのかは実際の場所や時間帯で異なってきます。それもまたフライフィッシングの面白さです。

ガイドの役割

星野 日本と違い海外では、ガイドがつくことが多いです。釣り人の面倒を見ることで、生活をしている人です。

日本では、去年あたりからヒグマなどに釣り人が襲われるケースが増えていますよね。昨年、北海道の朱鞠内(しゅまりない)湖で1人で来ていたベテランのフライフィッシャーが不幸にもクマに襲われてしまいました。

 そのためにも日本にも常にガイドがいた方がよいという方向になるでしょうか。

星野 そうです。実際に被害も出ているため、安全面からもフィッシングガイドの見直しの時期だという意見が出ています。

釣り人は釣りに熱心になりますから、クマが現れたことに気づかない恐れが高い。だからこそガイドが安全面を確認をしながら釣りを教えてある程度の報酬を得ることが必要です。今、日本にもガイドはいるのですが、個人個人でいろいろなやり方があるため、難しいところもあるのですが。

相馬 私も何回か、北海道でガイドに案内してもらって釣りに行ったことがあります。皆本当によく知っていて。海外はガイドがつくのは当たりまえなのですよね。

星野 ニュージーランドなどはガイドがいないところもありますが、実際はあまり釣れないですね。やはりガイドがつくと釣果は全然違う。同じ川へ行っても釣れる場所と釣れない場所が当然ありますから、現地のガイドしかわからないような場所がたくさんあります。

世界のフライフィールド

星野 カナダに行った時の話ですが、カナダには警官と同じように拳銃を腰にさしている森林警備隊がいて見回りに来るのです。

何を調べているかというと、持っていってはいけない魚を船に隠しているのではないか、といった違反を調べていることが多い。我々のところにも来て何を調べていたかというと、針の「返し(バーブ)」を潰さないと駄目というレギュレーションを検査されました。要するに返しで魚を傷つけないようにするということですね。

もちろんカナダとはエリアも広さも全然違いますが、私も北海道で、これからはそういう感覚で魚を守る、自然保護について考えなければいけないのかなと思います。

カナダ駐日大使のイアン・マッケイさんに、この間札幌で講演をしてもらった機会に、私がその話をしたら、「私も釣りをします」と盛り上がりました。フライフィッシングはイギリスもアメリカもあるクラスの人が趣味としてやっていることが多いですね。

相馬 イギリスだと大学の先生でやっている方が多い印象です。

星野 元々イギリス発祥ですが、今はどちらかというとアメリカが盛んですね。メーカーも多いですし、フライフィッシャーの人口もやはり多いと思いますね。それだけ場所が多いですから。

 海外で釣りをする際には、ガイドを事前に予約するのですか?

星野 そうですね。そのほうが全部面倒を見てもらえるので。

相馬 イギリスは釣り場が貴族の個人所有である場合が多いんです。川が流れて、落ち込んでたまって、流れ出して次のたまりがあってという、その一単位を「ラン」と呼ぶのですが、そのランごとに、個人所有の人たちは釣り場として貸すのです。

僕らが釣りをするためには、そのように貴族の方が貸しているところにエージェントを通じて交渉するんです。もう年の初めには予約が埋まってしまうことも多く、どのタイミングで魚が上がってくるかがわからないので、1つの賭けですよね。

星野 そこに入場料を払うのですね。パタゴニアでは、牧場を運営している人が多いのですが、あれだけ広いところで羊を飼ったりしていて、そこを川が流れているわけですよ。そこで釣りをしたい人は、入場料を牧場主に払うのです。

相馬 パタゴニアは何か変わった魚が釣れるのですか。

星野 ブラウントラウトの降海型であるシートラウトが有名です。ブラウントラウトが川で生まれた後、海に下り、産卵のために川を上るということを、パタゴニアのこの魚は8回も繰り返すため、とても大きくなるのです。最初はイルカが川で泳いでいるのかと思いました(笑)。

パタゴニアは立って歩けないくらい風が強い。そこでやっと少し風が収まった時に、自動車の横に隠れながら、体を出して、キャスティングをするのです。風向きを考えないと、とんでもない方向へフライが行ってしまうんですね。

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