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【三人閑談】
フライフィッシングに行こう!

2024/04/25

  • 相馬 義郎(そうま よしろう)

    国際医療福祉大学薬学部・基礎医学研究センター教授、慶應義塾大学医学部薬理学教室客員教授(元准教授)。
    大阪医科大学医学部卒業。博士(医学)。専門は膜輸送生理学。フライフィッシングを長年趣味とする。

  • 星野 尚夫(ほしの ひさお)

    一般社団法人札幌観光協会特別参与、北海道科学大学理事、札幌学院大学理事。
    1970年慶應義塾大学商学部卒業。慶應義塾大学釣魚会OB。趣味でフライフィッシングを嗜む傍ら、北海道の自然保護活動にも尽力。

  • 柴 光則(しば みつのり)

    エッセイスト。2010年慶應義塾大学総合政策学部卒業。慶應義塾大学釣魚会OB。民間系シンクタンクに勤める傍ら、釣り雑誌「鱒の森」(つり人社)に連載を持つなどエッセイストとしても活躍。

フライを始めた頃

星野 私は武蔵小金井で生まれ育ち、多摩川によくおじと釣りに行った記憶があります。慶應義塾大学では釣魚会という釣りのサークルに入りました。

 当時の釣魚会には、釣種別にパートが4つあったそうですね。

星野 渓流部門のパートに入りました。山形、新潟、青森などに釣りに行きましたが、中でも北海道が好きで、北海道拓殖銀行に就職したんです(笑)。しばらく釣りから離れていたこともありましたが、30年ほど前、釣り仲間とヤマメ(北海道、東北での呼称はヤマベ)の餌釣りを始めまして。

相馬 最初は餌釣りだったのですね。

星野 ええ。でも逆に餌釣りだと釣れ過ぎてしまってつまらないんですね。そんなある時、水生昆虫に反応して、ライズ(魚が水面で動く捕食行動)するヤマメを見て、これをフライで釣ったら面白いだろうと思ったんです。それで仲間と一緒にロッド(竿)とフライ(疑似餌)を買ってきて、始めたのがこの世界に入ったきっかけです。フライ歴30年くらいですね。

相馬 私は大阪医大出身ですが、大学院を終えた時、イギリスの同じ分野の先生から、1、2年の予定でイギリスに勉強に来ないかというお誘いがありました。そのボスがフライフィッシングが好きでして。

その時は勉強ばかりで、結局フライフィッシングは教えてもらわずに日本に帰って来たのですが、その後もその先生のところによく行き来するようになり、そのうちイギリスに行く度に釣りをするようになって。

当時は釣具のハーディーとかが幅を利かせていた時代で、古いイギリスの釣り道具をもらったりしました。

 ハーディーは素晴らしいリールですよね。私の釣りとの出会いは家族との釣りです。中学の頃、決まって土曜日だけは朝から晩まで父親と釣りに行って、そこで話をする時間を持っていました。

ある時、父に誘われて1本の映画を見たのです。『リバー・ランズ・スルー・イット』(1992年)という映画で、ロバート・レッドフォードが監督でブラッド・ピットが主演を初めて務めた映画として有名ですが、これがフライフィッシングを通じて心を通わせる家族の絆を描いた映画なのです。

初めてそれを見た時、正直、内容はよくわかりませんでしたが、アメリカの雄大な川の中で、カワゲラが夕焼けの中でハッチ(羽化)をして空に飛んでいく。その中で、4拍子でロッドを振る親子のシーンがあって、それに強く心を惹かれました。

それは単に釣りをするという行為ではなく、何かしら家族の関係性だったり、人生だったり、そういったものが私の中で重なったのですね。それでフライを始めたのがきっかけです。

「釣れない」魅力

相馬 フライフィッシングは諸説ありますが、500年以上前にイギリスの貴族が始めたと言われますね。普通の日本の釣りとは道具もやり方もかなり異なります。

星野 日本の渓流では毛鉤(けばり)を使う釣りがありますが、大きな違いは、日本のそれはリールがない。一方、フライフィッシングは色のついた太いライン(糸)とリーダーと呼ばれる透明で細いラインを使って、ロッドが生み出す反発力をラインに伝え、まったく重さのないフライを錘もつけずに遠くへ飛ばして魚を釣るのです。

フライフィッシングの魅力の1つは、逆説的な言い方になりますが、「釣れないこと」だと思うのです。一緒に行った餌釣りをしている仲間が3匹釣ったのに、こちらは1匹も釣れないこともよくあります。

でも、だからこそ「なぜ釣れないんだろう」と考えるのです。フライが駄目なのか、システム(仕掛け)が駄目なのか、流す場所が駄目なのか、ライズしていないから釣れないのか……。そしてフライを替え、流し方を変えて釣る。要するに工夫の余地がものすごくあるのです。

それだけに、釣れた時の喜びというのは、餌釣りよりも数倍大きい。そこがやはりフライフィッシングの神髄ではないかと思うのですが。

フライフィッシング用のロッド(竿)とリール(撮影:柴 光則)

 いろいろな魚がその時にどのあたりにいるかということで、狙う川のポイントや層が違う。この面白さが相当ありますね。

だから、狙う流れに応じてロッドやライン、フライの組み合わせが豊富にあります。これらシステムを使ってどこを流すか。魚が羽虫を狙って水面に飛び出してきた瞬間をどうやって狙うのかなど。

相馬 ドライフライといって水面を流れる虫を模した、浮くタイプのフライがあるのですが、これの場合、投げるポイントを読むのが非常に重要です。魚というのは、エネルギーを使わず、餌がたくさん流れてくるところに必ずいます。

魚自体を目で見ることができないことが多いので、川の表面の流れを読んで、魚のいる位置を把握して釣っていく。そこが面白い。

実は私は医学では分泌・吸収が専門です。胃液の分泌は体の膜を横切って液体が流れるのです。細胞の中はいかにもまるで石があって、その間を水が流れるような構造をしているのです。それと同じような感覚が川の流れにもあって。

 共通するものがあるのですね。

星野 どこか違和感があったら絶対に魚は来ないですから。自然に虫が流れていくように工夫する。ここが難しいのです。

 フライフィッシングの魅力は大きく分けて4つぐらいの面白さがあると思うのです。

1つはキャスティング(投げ)ですね。これがフライの要所で、重いラインを使っていかに狙いたいところに投げるのかということです。次にファイト。フライというのは昔から形も原理も変わってないリールを使うので、魚がかかった時のファイトが非常にエキサイティングです。3つ目はタイイング、つまり自分でフライを巻くことですね。鳥の羽根や、獣の毛などを使って作るのです。

最後に、これがやはりフライフィッシングの哲学かと思うのですが、自然観察です。お二人もおっしゃっていた通り、水の流れや水生昆虫の動き、釣り場の特徴に沿ってフライを選ぶ。そうした楽しみもあります。

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