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【三人閑談】
フライフィッシングに行こう!

2024/04/25

多種多様なフライ

星野 その通りですね。タイイングですが、フライの材料(マテリアル)は、クジャクの羽根や獣の毛などを集めてそれを巻くんですね。もっとも、年を取ってくると根気がなくなって、材料ばかり余ってしまう(笑)。

相馬 僕は下手なので、何を巻いても毛玉のように見えてしまいます(笑)。

星野 ただ、フライが精巧に作られているかどうかで釣果が違ってきます。プロの釣り師の中には、キャンプをして、釣った魚の胃を調べて、今はどういう虫を魚が好んでいるかを見て、その晩にフライを巻いて翌日使う人もいます。

 フライを分類すると大きくは4種類に分けられると思います。

1つが、先ほど相馬さんが言われたドライフライ(Dry Fly)という浮力を持つもの。水面上に浮くように設計されていて、水生昆虫や陸生昆虫の成虫の形状を表現しているのが特徴ですね。

そして2つ目がウエットフライ(Wet Fly)。ウエットフライは水面下に沈むように設計されていて、幼虫、若虫、さなぎ、溺れた昆虫などを模しています。

そしてニンフ(Nymph)という水生昆虫や小型の甲殻類の未成熟な形状に似せて設計されているものもあります。

あと1つがストリーマー(Streamer)ですね。これは肉食魚の捕食対象となる小魚を模したフライで、比較的大型のものです。

星野 ストリーマーは比較的大きな川で、遡上魚などの大きな魚を狙う時に使いますね。北海道では十勝川という大きな川がありますが、ここはアメマスが海から上がってくる。それをダブルハンド(竿を両手で握って行う釣り)の長い竿でストリーマーで狙うのです。

川の状況とか季節によって、様々なフライを使い分けるんですね。虫が羽化するタイミングなどもありますから。

 あと、フライにはパターンと言って、何百年の間に、色々と試されて、これは釣れるぞという形、素材の組み合わせや配色などがあります。数百万単位と数えきれないほどのパターンがあるのです。中でも有名なものの1つが、ロイヤルコーチマンというフライです。

星野 有名なパターンですね。これは何でも使えます。それから、エルクヘア・カディスとかも有名なパターンですね。変わったものだと、チェルノブイリアントというのがあります。

 あれはチェルノブイリで巨大な蟻が見つかったことから、皮肉ったネーミングをされた、大型の蟻を模したフライですね。フライは毎年雑誌やネットで新しいものが出るので、追いかけるのが大変です。

多種多様なフライ(疑似餌)

湖の釣り、川の釣り

相馬 フライフィールド(釣り場)で言うと、北海道は本当にユートピアですね。

星野 それでもだいぶ釣れなくなりましたけどね。ストリーマーを使った遡上魚狙いは北海道の大きな川がいいですね。

湖での釣りも川とはまた違う別の面白さがあります。支笏(しこつ)湖にニジマスを釣りに行った時、セミのフライをポンと湖面におくと、川と違って流れがないので、ふわふわと浮いているのです。そこへ60センチぐらいの大きなニジマスがどっと来たのですが、その時は上手く食いつかなかった。3回目に行って、やっと50センチぐらいのものが、フライにバッと食いついて釣れたのが感激でした。

また、自分でボートを漕いで、好みのポイントに移動できるのも魅力です。川が湖へと流れ込んでいるようなところが最高のポイントで、そこへドライフライを浮かせておくのです。そうすると魚がガバッとくる。この面白さは、やめられないですね。

相馬 川とは違う面白さがありますよね。私も北海道には何回か行っています。

石狩川の上流、大雪湖に行ったのですが、湖のワンド(入り江状に深く抉られた地点)で、大きなニジマスがずっと泳いでいて、上から本物のセミがばさばさと落ちてくるからチャンスだと思って早速始めたんです。そうしたら、本物のセミではなく僕のフライをパクンとくわえたのですね。

魚は賢くて、ちゃんと本物を見分けるかと思いきや、あの時はそうではなく私のフライを食った。あれが印象的でした。

星野 魚といえどもパーフェクトではない(笑)。

 川は流れがあって、湖にないというのは、エッセイを書く側からすると非常に面白いところです。

我々フライフィッシャーは、釣りへ行く前日は、子供の頃の遠足の前夜のようなワクワク感が必ずあるんですね。ただ、皆様がおっしゃったように、フライって釣れない釣りなのです。「本当に今日はいい日だった」というような日はもう1年に何度もない。

そういう中で、釣れない時間が多いわけですから、いろいろなことを考えるんですよね。川の流れというのは、いろいろな文豪が書いているように、非常に釣り人の心を惹きつけるものがある。その流れの中で釣り人は様々な思いをめぐらせるんです。風が流れて、水が流れて、いろいろな思いが、うれしいことも悲しいことも、人生のつらいことも、いろいろなものが流れに重なって、そこに川がある。

逆に湖というのは、水が止まっていますから、特に朝など、風が凪いだ時は鏡のようです。そこに否応なく自分の人生が映し出されているような感覚を私は抱きます。

星野 確かにそうですよね。本当に風のない時に、セミを模したフライを湖に浮かべて、いつ来るか、いつ来るかと待つ。こういうドキドキ感やいろいろものを考える面白さがありますね。こちらはあまり目立たないようにして、木などに腰を下ろして見ているわけです。

釣果も30センチ超えぐらいのある程度の魚が続けて釣れる時もあるのですが、しばらく続くと、面白くなくなってしまう。贅沢な話ですが、釣るからには大物を釣りたい。だけど大物は警戒していますからね。そうすると、それをどうやって食わせるかということを静かに考える。そういう緊張感と、釣れた時の楽しさがいいんですね。

相馬 イギリスでは、その土地のオーナーとおぼしき人が川に来て、ロッドも振らずに、やにわにベンチに座って本を読みだすのです。それで魚が水面で跳ねだすと、ふと本を閉じて立ち上がってキャストを始めて一発で釣って帰っていく。本当に貴族的な釣り生活だなと(笑)。

 釣れればいいというわけではないのが面白いところです。

イギリスの釣り場(手前側が地元の釣りクラブの釣り場、奥が個人所有の釣り場)(撮影:相馬義郎)

フライフィッシングは日本で人気?

相馬 フライフィッシングはある程度時間に余裕がないとできない釣りだとは思います。そこが新しく始めようとする人たちには少し難しいかもしれませんね。

星野 ただ、この20年ぐらいで日本でも人気は出てきているとは思います。なぜ日本でもやる人が出てきたのかを考えた時、やはり昔は渓流でも湖でも、狩猟感覚で魚を釣っていたと思うんですね。

要するにそれは持って帰って食べるためだった。でも、実際今はそんなにたくさん釣っても食べられないですよ。それに現在の日本は他の食もたくさんあります。

むしろ今はアウトドアのスポーツとしてフライフィッシングが人気になっているのではないでしょうか。だから、釣れない釣りでも楽しめるということではないかと思います。

 調べてみると、フライをやる人は実は減っているのです。ただ、市場は伸びている。フライフィッシング人口を客観的に調べる資料はないのですが、日本の釣用品工業会が出している釣種別の市場推移と『レジャー白書』の釣り全体の人口を見てみると、長期トレンドで人口は減っていますが、直近5年のフライ用品の売上げは伸びている。1人当たりの消費量が上向いているのです。

相馬 道具に凝る方が多くなった、ということでしょうか。

 フライフィッシャーには年配の方が多いため、時間もお金も余裕がある方々が道具にお金をかけ、売上げが伸びているのだと思います。

一方、近年、ファッション業界でフライフィッシングに着想を得た服が非常に増えているのです。バブアーのショートブルゾンは元々はフライフィッシング用に作られた服ですが、若い世代にも大人気ですし、釣りの流行した90年代のファッションが今またトレンドになる中で、ハイブランドも釣りの要素を服飾デザインに取り込んでいます。こうしたファッションに惹かれてフライを始める若い方もいると思います。

星野 ファッションで言うと、今、アメリカのシムス(Simms)が、いろいろな意味で圧倒的です。今札幌などでも大きなオーバーなどを着る人はほとんどいなくなり、女性も男性もみんな、シムスが作るような素材が軽くて丈夫なジャケットを着ている。若い人が釣り用に作ったものを加工し、ファッションとして楽しむこともあるようです。

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