【三人閑談】
ベトナムに誘われて
2024/03/18
ベトナムグルメ自慢
難波 お米はどうですか? 第2次世界大戦の時に、フランスではベトナムから動員された人たちにカマルグという地帯でお米をつくらせていました。稲作大国のベトナムにとってお米づくりはお手のものだったと思いますが、彼らの多くは戦争が終わってベトナムに帰り、フランスに残った一部の人たちも今はお米をつくっていません。
長島 フランスでもお米のニーズがあったのでしょうか。
難波 19世紀末からつくっていたようですが、良いお米ができず、すっかり廃れていたようです。そこにベトナム人を連れてきてつくらせたところ、ちゃんとしたお米ができ、それをきっかけに稲作地帯は復活したと言います。今では美味しいカマルグ米という高級米がつくられています。
グェン 日本のお米がもちもちして食べやすいのとは対照的に、ベトナムのお米は細長くてドライなのでチャーハンに適しています。ベトナムではお茶漬けのように、スープをかけて食べるのがポピュラーです。でも日本ではふつうごはんとスープは別々に食べますよね。
難波 ベトナムは麺類も美味しいですね。私はハノイでチャーカーにハマり、しょっちゅう食べていました。あれは日本では食べられません。
長島 たしかに見かけないですね。
難波 ハノイの名物ですよね。ターメリック和えにした魚のぶつ切りをディルなどの香草やネギとともに多めの油で炒める。それをニョクマム(魚醤)と麺で食べるのがものすごく美味しくて、私も日本に帰ってから自分で試したりもしました。チャーカーに使う魚は川魚ですか?
長島 雷魚だと思います。チャーカーは私も大好きです。
私はハノイの東にあるハイフォンという港町の名物バインダークアにハマりました。フォーに似ているのですが、サトウキビを混ぜてある茶色い平打ち麺を、カニの出汁が効いたスープでいただくのです。日本風に言うとカニのラーメンみたいな。さつま揚げみたいな具がのっていて、脂っこくなくさっぱりしている。それがすごく美味しかった。
難波 バインダークアも日本には入ってきていないですよね。
長島 そうですね。
グェン ベトナムの麺料理は本当にいろいろな種類があります。
長島 ご当地ビールもたくさんありますよね。私はいろいろな土地で飲みましたが、それぞれ特色があっておもしろいです。ハノイのほうは寒い季節があるせいか、やはり味が濃く、それに比べてホーチミン市の333(バーバーバー)などは薄味です。
難波 中南部のダラットでつくられるダラットワインも、とても美味しくなりました。
長島 そうそう。私も最近初めて飲んで美味しいと感じました。昔はそうではなかったのですか?
難波 全然美味しくなかった(笑)。ですが、この20年でベトナムのワインの質は飛躍的に上がりました。
ベトナムの家庭の味
長島 グェンさんにとって故郷の味というのは何ですか?
グェン ハノイにいた頃は、スペアリブの甘酸っぱい煮物をよく食べていました。ベトナムにも日本の豚の角煮と似た料理がありますが、味付けにニョクマムを使います。醤油とニョクマムのように、日本とベトナムは調味料も似ていますね。
長島 ニョクマムは北でも南でも料理に使うのですか?
グェン そうですね。醤油のように、いろいろなものにつけて食べます。
ベトナムの食文化と言うと、野菜をたくさん食べます。種類が豊富でどれも安く、茹でた野菜を大きな皿に盛って皆で食べます。
魚もベトナムは川魚。日本は海のものが多いと思いますが、とくにハノイは海が遠いこともあって川魚のほうが安く手に入ります。
難波 中華料理の影響はあるのでしょうか? 中国の影響下にあった時代も長かったと思うのですが。
グェン 中華料理の影響は少ないように思います。それよりもフランスやタイのほうが近いはず。中国の料理は調味料を多く使いますが、ベトナムはそこまでじゃない。日本と同じように材料の新鮮さを生かして食べます。シンプルですが、ハーブなどの香菜をたくさん使います。
難波 確かにベトナム料理はハーブの使い方が巧みですね。
グェン ハーブは味も色も種類が豊富です。市場に行けば、たくさん売っていてスーパーよりも安くて美味しい。鶏肉も市場で売られているニワトリは所謂フリーレンジ(放し飼い)なので歯ごたえが良いです。
市場の良いところは安心して買えることです。私の母は市場で働いている知り合いが多く、食材のクオリティも信頼できるものばかりです。
長島 グェンさんのお宅では、大体家でごはんを食べていたのですか? それとも屋台?
グェン 普段は家で食べていました。もちろん屋台で食べることもあります。屋台は安いので1人暮らしの人に人気です。
難波 屋台は本当に安くて美味しいですよね。私はいろいろなお総菜が並んでいる屋台が好きです。
グェン コムビンザンですね。
難波 そう。ハノイにいた時には自炊をほとんどせず、コムビンザンでいろいろなものを食べていました。ビンザンは「平民」といった意味なので、日本で言う「大衆食堂」といった意味ですね。
長島 私もコムビンザンはよく利用しました。バインミーのように、コレとコレと指さしてご飯と一緒に盛ってもらうのが楽しかったです。
交通事情とライドシェアの普及
難波 ところで最近、行くたびに物価高を感じませんか。この20年の間に物価がとても上がっているのに驚きました。私が初めてベトナムに行った時の一番大きなお金の単位は5万ドンでしたが、今は50万ドン(約3,000円)になっている。給与水準も上がっているのだと思いますが、10倍は驚きです。
長島 最近ハノイもクルマが増えました。かと言ってバイクも減ってはいないので、街の中はすごい渋滞です。ベトナムの財閥企業のビングループが自動車の生産・販売を始めたので、ベトナムの人たちも乗りやすくなったとは聞いていたのですが、これにともない信号も整備され始め、バイクもクルマもちゃんと止まるようになった。そういう変化が良くもあるようで、寂しくもあります。
難波 そうすると、最近は横断歩道を渡るのが命がけではなくなってきたんですね(笑)。
長島 そうです。でも中心から少し離れたエリアでは昔ながらの感じが残っています。やはり左右を見ながらバイクの間を縫うように渡るのがハノイで生きていくための第1関門ですよね(笑)。
私は街中の移動に路線バスやバイクタクシーを利用していました。とくにバイクタクシーは普通のタクシーよりも開放感があるのでよく使っていました。
難波 ハノイで印象的だったのは、路線バスで席を譲られたこと。私、まだそんな歳じゃないのにと戸惑いました。乗客には若い学生さんが多いので、相対的な問題だよねと思い直し、今ではありがたく譲ってもらっています(笑)。
長島 私も譲られたことがあります。若い人たちは皆、とてもスマートに譲ってくれますよね。
難波 私はコロナ前から普及していたGrabタクシー(ライドシェアタクシー)を使うことも多かったのですが、長島さんは使ったことがありますか?
長島 ライドシェアアプリのGrabは便利ですよね。私もよくGrabでバイクタクシーを利用しました。
グェン 日本のタクシーはあまり変わっていませんが、ベトナムのモビリティはどんどん変わっています。Grabが普及するまでは、近所のおじさんなどに頼んで行きたい場所まで連れて行ってもらっていました。最近はGrabのようなアプリだけでなく、ビングループからエンジン音の小さな電動バイクが発売されたりもしています。
難波 Grabのドライバーの人たちもすごくいい車に乗っていたり、何だかもう日本と逆転しつつある感じです。私の学生時代はまだ経済水準の差が大きく、ベトナムの人とごはんを食べても日本人がごちそうする感覚でしたが、今は逆。現地でたくさんごちそうしてもらいました。ベトナムって同年代の人と食事する時でも、皆、おごる文化がありますよね。
グェン そうですね。
難波 割り勘みたいにけちけちしない。そういう時に沈みゆく日本と発展するベトナムの対比を感じます(笑)。
長島 ベトナムは活気があって、私も行くたびに日本との違いを感じつつ、いつも元気をもらいます。
難波 グェンさんは日本にいて悲しくなりませんか?(笑)
グェン そんなことはありません(笑)。ですが、ベトナム人と比べて日本の人とは仲良くなりにくいと感じます。日本の人はあまりプライベートな話をしないので。
難波 その点は違いますね。ベトナムの人たちは個人的なことをすぐに訊いてきます。結婚しているのか、子どもはいるのか、何歳なのか、収入はいくらかと。
長島 踏み込んできますね(笑)。
難波 そう、いきなりそれ訊きますかという感じ(笑)。
グェン もちろん、プライベートなことを訊きすぎるのはよくありませんが、それによって仲良くなりやすいところもあります。
難波 なるほど。こういう話題をきっかけにいろいろと話が広がっていくのですね。
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